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北欧のサステナビリティが世界をリードするのはなぜ? 意識や社会構造から考える

» 2024年05月09日 08時30分 公開
[環境ライター 箕輪弥生サステナブル・ブランド ジャパン(SB-J)]
サステナブル・ブランド ジャパン

本記事はサステナブル・ブランド ジャパンの「北欧のサステナビリティが世界をリードするのはなぜか、その意識や社会構造から考える」(2024年4月23日掲載)を、ITmedia ビジネスオンライン編集部で一部編集の上、転載したものです。

 世界の幸福度やSDGsランキングでも、必ず上位にランクインする北欧の国々。なぜ、サステナビリティの意識が国民に浸透し、実践されているのか。企業はどのような戦略でサステナビリティの実現を進めているのか。

 サステナブル・ブランド ジャパン主催のイベント「SB国際会議2024東京・丸の内」のDay2ブレイクアウトセッションでは、デンマーク大使館の参事官が政府や企業の戦略について解説し、日本でも多店舗展開するIKEAの実践や、デンマークのサステナブルな建築に関するスペシャリストの活動も紹介された。

北欧でサステナビリティが進むのかなぜか?(画像:以下、PATRONEFILM)

 それらを通して、北欧のサステナビリティが世界をリードする背景には、気候変動への明確な目標、ジェンダー平等、ヒエラルキーの払拭(ふっしょく)があり、目標に向かってさまざまな企業や団体が強く連携することで持続可能な社会をつくり出していることが見えてきた。

気候変動への明確なアクションと合意

 サステナビリティへの取り組みについて、セッションの口火を切ったのはスウェーデンのホームファニシング企業イケア(以下、IKEA)のサステナビリティマネージャーの平山絵梨氏だ。

 ファシリテーターのニールセン 北村朋子氏が最初に投げかけた、サステナビリティの思想的な背景についての質問に対して答えた。

 「IKEAは創業以来80年にわたって、限られた資源を有効に使うために、木材を無駄にしない商品設計や最小サイズを追求した平らな梱包『フラットパック』を開発してきた。このような低価格で機能的なデザインは、サステナビリティを保証しながら開発する『デモグラフィックデザイン』が商品開発のコンセプトになっている」と平山氏は説明した。

イケアのサステナビリティマネージャー 平山絵梨氏

 さらに、IKEAはSDGsの17の開発目標やパリ協定で合意された1.5度目標に整合する形で2030年に向けた行動目標を設定しており、それは(1)健康的でサステナブルな暮らし、(2)サーキュラー&クライメートポジティブ、(3)公平性とインクルージョンから成る。

 IKEAはこの目標に対応した多くのアクションを遂行している。例えば、家具のデザインも長く製品を使ってもらえるような設計かどうかという視点を加え、2030年までにIKEAの全ての家具に循環性を備えることを目標に掲げている。

 次に、デンマーク・コペンハーゲンにある設計・コンサルタント会社ヘンリックイノベーションでサステナブルな建築のコンサルタントとして働く蒔田智則氏は「サステナビリティ戦略の背景にあるのは、明らかに気候変動だ」と話す。最近のデンマークでは、クリスマス時期に雪が降らず、夏には今まで必要のなかった扇風機が飛ぶように売れるという。

 そうした中で、蒔田氏は「建設業界は世界が排出するCO2の40%以上を排出しているので、非常に責任が重い」と自覚を語る。

ヘンリックイノベーションで働く建築コンサルタント 蒔田智則氏

 同社は、建物のサステナビリティや室内環境に特化した専門技術を生かしたコンサルタントをしているが、建物のエネルギー消費は気候変動対策の大きな鍵を握る分野だ。

 デンマークのデザイン団体では「1.5度目標に合わせるためには、現在1平方メートル当たり9.6キログラムの建築に関わる排出量を10年間で0.4キログラムにまで削減しなければいけない」という目標も明確に打ち出している。

 「非常に厳しい目標だが、これまでデンマークは70年代のオイルショックを経験し、風力など再生可能エネルギーにかじを切り、小さな成功体験を積み重ねている。行動目標への同意も早いのでは」と蒔田氏は分析する。

デンマーク、世界で初めて農家に炭素税も

 日本のデンマーク大使館で9年間、農業や畜産、環境を専門にする参事官、イェスパー・ビベ-ハンセン氏はデンマークの大企業がサステナビリティに注力しているのは、明らかに気候が変化しているからであり、消費者も持続可能なソリューションを求めているからだと説明する。

 それにどのようにデンマークや企業が対応しているかをハンセン氏は担当する農業・畜産業などを例に説明した。

イェスパー・ビベ-ハンセン氏

 そもそもデンマークのCO2の排出量の中で、農業が占める割合は30〜35%と高い。一方の日本はわずか4.5%だが、これは日本が食料確保を輸入に頼っていることを示している。デンマークは多くの食料を自国で生産しており、この差は非常に大きい。

 例えば畜産業では、企業は科学的根拠に基づく削減目標値を報告書に表示し、工場の脱炭素化、バイオガスの自給、それに飼料なども輸入に頼らず自前で供給することが多い。

 これは非常に重要な要素であり、ヨーロッパ最大の食肉加工業のダニッシュ・クラウン(Danish Crown:本社デンマーク・ラナース)では、すでに飼料の65〜70%を自社農場で生産している。

 さらに消費者が食品のCO2排出量を分かるように、気候ラベリング「クライメート フットプリント」を表示する取り組みも始まる。農場ではアニマルウェルフェアを取り入れ、オーガニック製品も非常に多い。

 このような取り組みの積み重ねの結果、デンマークの農業と林業から排出されるCO2は1990年に比べて2030年までに55〜65%の削減ができる見込みだ。

 さらに、政府も農業分野の脱炭素化への政策を明確に打ち出している。セッションがあった前日の2月21日には世界で初めて農家向けに炭素税を課税する具体的な計画が発表された。また食糧庁は健康と気候変動のために、国民になるべく肉の消費を減らし、魚や植物性の食品を食べるように推奨している。

フラットでオープンな社会構造が生む目標への素早いアプローチ

 ニールセン 北村氏の「デンマークのサステナビリティへの取り組みが、行動につながるまでが早く、野心的である背景は何か」との問いに対し、蒔田氏は「上司でもお互いに何でも言い合える関係があり、ヒエラルキーがなくてフラットな組織である」ことを挙げた。

ニールセン 北村氏

 平山氏は、サプライヤーへの調査では、まず人権に配慮した労働者の環境に関する質問を重点的に聞くことや、ジェンダー平等に関する取り組みが進んでいることを挙げた。

 「IKEAでは、経営マネジャーのポジションを採用する際には、必ず男性と女性の候補者を立てることや、子育てをしながら仕事をすることは一般的で、女性マネジャーでもそういったロールモデルが数多く見られる」と具体例を挙げながら説明した。

 またハンセン氏は、気候は明らかに変化し、消費者や顧客がサステナビリティに関する取り組みを求めていることを再度強調し、「私たちが解決策を念頭に置いてこれらの問題に取り組むことは共通の理解があるはずだ」と話した。

“Work together”なくしてサステナブルに到達しない

 北欧のサステナビリティを論じたこのセッションで、3者が目標を達成するために重要だと指摘したのが“Work together”というキーワードだった。

 平山氏は、IKEAの財団法人が所有する組織構造について説明し、それによってグループの年間の純利益の15%を気候変動や貧困をテーマに活動しているNGOやNPOの支援に当てていることを明らかにした。

 「脱炭素や循環型ビジネスを目指した大きいミッションを実現するには、需要家(消費者)の声を束ねて世界でムーブメントをおこすためにさまざまな企業や団体と連携することが重要だ」(平山氏)

 ハンセン氏も、もともと小さい企業だった畜産農家が集まって協同組合をつくり、ダニッシュ・クラウンのような大企業になった経緯を説明し、連携することで情報が集めやすく、結果が出やすいというメリットを指摘した。

 蒔田氏も、CO2の削減目標「Reduction Roadmap」に対して、建設業界だけでなく多くの企業や団体が参加していることを挙げ、「みんなで手を組んでやらないと達成できないし、そういう連携がデンマークのやり方だ」と話した。

 最後に、ニールセン 北村氏は「そもそも私たちはどんな世界に生きたいのか」「今やろうとしていることが人々と地球の未来に矛盾がないのか」などの問いがサステナビリティを考える上で大事なのではないかと結んだ。

著者紹介:Sustainable Brands Japan(SB-J)メディア・サイト

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