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企業のサステナビリティ戦略、2024年のリスクと機会はどこにある? 4大コンサルファームが指摘

» 2024年04月02日 08時30分 公開
[廣末智子サステナブル・ブランド ジャパン(SB-J)]
サステナブル・ブランド ジャパン

本記事はサステナブル・ブランド ジャパンの「2024年のリスクと機会はどこにあるのか――4大コンサルファームが指摘する企業のサステナビリティ戦略」(2024年1月4日掲載)を、ITmedia ビジネスオンライン編集部で一部編集の上、転載したものです。

 世界中で猛暑が続き、「地球沸騰化」という表現もなされた2023年。

 世界の気温上昇を産業革命前から1.5度に抑える目標の達成が危ぶまれるなか、企業のサステナビリティに対する取り組みを巡っては、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)による最初の開示基準や、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)の最終提言も発表されるなど、世界的に非財務情報の開示を求める動きが本格化した1年となった。

 そしてウクライナやパレスチナ情勢の先行きも見えないなかで幕を開けた24年はどんな1年になるのか──。いわゆる4大グローバルコンサルファームといわれるPwCコンサルティングとデロイト トーマツ グループ、KPMGコンサルティング、EYストラテジー・アンド・コンサルティングが昨年末にかけて発表した最新の調査結果から、企業を取り巻く2024年のリスクと機会の傾向と課題を探った。

企業のサステナビリティ戦略、2024年のリスクと機会はどこにある?(photo by Mohamed Nohassi on Unsplash

PwC:気候変動と社会的不平等に対するリスクが上昇

 PwCが23年9月に、世界30の国と地域の投資家とアナリストを対象に行った最新の意識調査によると、投資家は「企業が短期的な危機への対応と中長期的なビジネス変革の間で生じる潜在的なトレードオフにどのように取り組んでいるのかをより詳しく把握したい」と考えている。

 投資対象の企業が、今後12カ月において、どんなリスクにさらされると思うかという質問の1〜5位は「インフレ」(46%)、「マクロ経済の変動」(39%)、「地政学的対立」(34%)、「サイバーリスク」「気候変動」(32%)だった。前年の同じ調査では、インフレが67%、マクロ経済の変動は62%と、これら2項目は今回の調査で約20ポイント減少した。しかし、気候変動に関するリスクは22%から10ポイント増え、さらに社会的不平等も11%から21%へと高まっている。

 そして、投資家の75%は、企業がサステナビリティに関連するリスクと機会をどのように管理するかが投資の意思決定における重要な要素だ、と回答。サステナビリティが財務上のパフォーマンスにどのような影響を与えるかを示すレポートだけでなく、逆に「企業が環境や社会に与える影響についても知りたい」と考える投資家も、前年の60%から75%に増加した。

 さらに69%は「事業のパフォーマンスや将来展望と関連があるサステナビリティの課題に適切に対処している企業への投資レベルを高める」、67%は「社会や環境に有益なインパクトをもたらすために事業のやり方を変える企業への投資を増やす」と回答している。

 注目すべき結果は、94%に上るほぼ全ての投資家が、サステナビリティの実績に関する企業報告には、しばしばグリーンウォッシングと呼ばれる「何の裏付けもない主張が含まれていると考えている」ことだ。この点について投資家は、従来よりも警戒感を強めている。

 投資家がEUの企業サステナビリティ報告指令(CSRD)や、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)などの新しい開示基準を支持するのも、「第3者による保証」とともに、サステナビリティに関する「より一貫性のある比較可能な報告」を求めてのことに他ならない。

デロイト:日本企業も役員報酬へのESG指標の組み入れ急増

 デロイトは23年末、22年度におけるTOPIX100構成銘柄の有価証券報告書を分析し、役員の業績連動報酬へのESG要素の反映状況を調査した結果を発表した。

 それによると、短期または中長期のインセンティブのいずれかにESG要素を反映する日本企業の割合は直近3年に急ピッチで増え、20年度(24%)、21年度(52%)に続き、22年度は66%だった。

 ESG連動型役員報酬を導入している企業(66社)のうち、指標の内訳を具体的に開示しているのは56社だった。項目としては、人的資本(多様性、従業員エンゲージメントなど)が短期インセンティブ15件(前年度比+4件)、中長期インセンティブ21件(同+5件)と多くの企業で導入されているほか、温室効果ガス排出削減量など気候変動に関するものも、特に中長期インセンティブで25件(同+9件)と大きく増えた。

 加えて66社について、役員報酬にひも付くESG指標とマテリアリティの関係を統合報告書を基に調査したところ、自社のマテリアリティを定義している企業は57社で、そのうちマテリアリティと役員報酬に設定されるESG指標が連動している企業は7社にとどまった。

 この結果について、デロイトは「ESG指標を役員報酬と連動させることで企業がESG課題に取り組む姿勢を内外に示す動きは広まっている。しかし、適切な制度設計を行っていないために、ESG目標に対して経営陣が『本気で取り組んでいる』とステークホルダーに示すという期待効果が発揮されていないケースも散見される」と課題を指摘。

 さらに「役員報酬へのESG組み入れは今後も増えていくと予想されるが、ブームに追随した形だけの取り組みに終始せず、ステークホルダーからの信用を確保するに足る、説明性・実効性を持った内容になっていくことを期待する」としている。

KPMG:テクノロジーイノベーションの最優先課題にESGが躍進

 KPMGは、テクノロジーに関する組織の優先課題と企業におけるDX戦略の次の段階の展望について、世界16カ国の大手企業の上級管理職者らを対象に行った「KPMGグローバルテクノロジーレポート2023(日本語版)」(参考リンク:PDF)を発表した。

 それによると、回答者の多くがテクノロジー投資によって10%を超える収益性や業績の向上が得られたと回答。前年の約2.5%を大きく上回った。さらに、最新ツールや先端テクノロジーの導入に対する経営者の支持は10%から38%へと、前年のほぼ4倍に増加したという。業種別では製造業が50%と最も多く、以降、エネルギー産業と政府機関(いずれも44%)、ヘルスケア産業(43%)の順だった。

 一方、「テクノロジー部門が今後2年間で優先するイノベーション目標は何か」という、デジタル投資の重点領域に関する設問には、前年まで最下位だった「ESG課題への取り組みが主要なイノベーション目標になる」とする回答が躍進。48%が温室効果ガスの排出量削減を含むESG課題へのコミットメントを最優先課題として挙げた。

 また、調査では回答者の多くが、DXの成功を危うくするボトルネックとして「企業文化」の弊害と「コラボレーション」「コミュニケーション」の不足を挙げた。

 さらに回答者の69%は「新しいテクノロジーの可能性をより効果的に経営層に説明できるようになる必要がある」と回答し、日本を含むアジア太平洋地域ではこの数字が80%に上った。これらの調査結果について、KPMGは「連携の欠けたテクノロジー部門こそが、DXの進捗を妨げる最大の要因だと多くの回答者が考えていることがうかがえる」と分析している。

EY:24年は引き続き生成AIが大きなビジネス機会に

 EYは昨年末に「テクノロジー業界の2024年の展望は過去12カ月より明るい」とする最新のレポートを発表した。

 それによると、世界のテクノロジー業界は23年、マクロ経済の弱さと地政学的な緊張を乗り越え、生成AIを中心とした企業戦略で投資家の信頼回復を引き寄せた。そうした流れから、24年の業界は企業経営に生成AIをどう導入するかが大きなビジネス機会になるという。

 しかしながら、ほとんどの企業(90%)ではAIの成熟度がまだ初期段階にあり、その影響は「諸刃の剣」だ。なぜなら、生成AIの出現前に設計・実装されたDXの取り組みは急速に時代遅れになりつつあり、新機能を優先する競合他社にその地位を奪われる可能性がある。一方で、DXの初期段階で遅れをとったテクノロジー企業は生成AIを経営戦略へ効果的に取り入れることで、はるかに先を行っていた競合他社を追い抜くことができるのだ。

 このリスクと機会のバランスに直面し、デジタル変革において業界のリーダーシップを維持または達成しようとしているテクノロジー企業には「(担当責任者ら主要な幹部で構成する司令塔となる)『AIコントロールタワー』を設立する必要がある」とレポートは指摘。根底は「人間がデジタル変革の中心にとどまり続けること」であり、人を中心とした安全で倫理的なAIの導入が前提になると強調している。

著者紹介:Sustainable Brands Japan(SB-J)メディア・サイト

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