訪日客6000万人の受け入れ体制は? オーバーツーリズム対策急務

» 2024年05月15日 20時36分 公開
[産経新聞]
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 訪日外国人客数が急回復を見せる一方、政府、自治体、企業は過度な混雑や観光客によるマナー違反といったオーバーツーリズム対策を急いでいる。日本の観光業を確かな成長軌道に乗せるうえで、受け入れ体制の構築は喫緊の課題だ。

 「観光客の受け入れと住民の生活の質の確保を両立しなければならない」。観光庁の高橋一郎長官は、15日の会見で対策の必要性を強調した。

 各地でまず課題となるのは観光客増加に伴う混雑の分散だ。京都市バスでは6月から「観光特急バス」を導入する。京都駅から人気エリアの清水寺や祇園への直行路線を設け、通常路線の乗客を分散させる狙い。大型連休期間には市バスから地下鉄への無料振替輸送を実施するなど、地下鉄とも連携して市内の混雑緩和を図った。

 より広範囲の地域分散に力を入れるのは旅行会社だ。JTBは、地方へ人流を促すツアーを展開。個人では手配が難しいエリアへも周遊できる商品を開発しており、3月には新たに北海道と東北方面のツアーを発売した。近畿日本ツーリストを傘下に持つKNT―CTホールディングスは地方誘客に注力する方針を掲げ、小山佳延専務は「観光客を(多様な)地域に流入させることが我々の役割だ」と話した。

 政府の動きも加速している。先月の観光立国推進閣僚会議で、岸田文雄首相はオーバーツーリズムの未然防止と抑制に向けた対策を改めて指示。対策のモデルに選ばれた20地域に、審査を経て政府から最大8000万円の補助金交付を受けることを可能にした。モデル地域の一つである埼玉県川越市は、地元商店街や交通事業者などとも連携し、近く具体策を固めて政府に提出する方針。

 政府は令和12年に、過去最多だった元年の約2倍となる、年間訪日客数6000万人の目標を掲げる。訪日客誘致に向けた地域の魅力向上はもちろんだが、地域社会と観光業の共存に向けた実効性あるオーバーツーリズム対策が求められる。(重川航太朗)

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