そもそも日本の内部通報制度には「通報した人を守る視点」つまり告発者視点が著しく欠けています。
内部通報した社員を守るために2006年に施行された「公益通報者保護法」の第3〜5条には、内部告発を理由とした解雇、派遣労働契約の解除、その他の減給、降格といった不利な扱いを禁止すると書かれていますが、肝心要の罰則規定が明記されていません。
どんなに国が「あなた(=通報者)を守る法律があるから大丈夫!」(前掲のWebサイト)と豪語したところで、「法の抜け穴」をかいくぐるのは可能です。「内部通報者に冷淡な国」と言っても過言ではないほど“その穴”は大きい。
例えば「匿名でもオッケー。いつでも通報してね」という制度が会社にあっても、密かに“犯人探し”をすることは可能ですし、「ちゃんと調査してほしけりゃ、実名で通報してね」と、“圧”をかける会社はかなり存在します(あくまでも私の印象ですが)。
「それでも言うしかない! これはおかしい!」と、心ある社員が勇気を出して実名で通報したところで、「当該行為は確認できなかった」などと否定し、通報者が自主的に辞めるような陰湿な手法を取ることも少なくありません。
世界に目を向けると「内部通報者の保護を実質的なものにするための制度」が徹底されている。「不当な扱いを受けた」時に、通報者が異議申し立てできる窓口を設置しているのです。
例えば、EU(欧州連合)では、2019年に「EU公益通報者保護指令」が成立。内部通報者が異議申し立てをできる窓口の設置が盛り込まれ、雇用主側に「不当解雇でないこと」を証明する責任があると定めています。
英国には雇用審判所(Employment Tribunal)があります。元来、英国の労働法規制は雇用する側が簡単に解雇したり、労働者が不利益を被ったりすることがないようになっているので、さまざまな角度から「内部通報者」が守られる仕組みが徹底されています。
お隣の韓国では、2011年に成立した公益通報者保護法で、解雇などの不利な扱いをした企業に対する、罰金や懲役を含む刑罰を定めました。
また、世界一といわれるほど、内部通報の制度が整備されている米国では、通報者に報奨金が払われます。2023年5月には米証券取引委員会(SEC)が、寄せられた情報が法執行などに役立ったとして、内部告発者1人に過去最高の報奨金約2億7900万ドル(約380億円)を授与したと発表しています(参考)。
報奨金を出すことについては賛否両論があります。しかし、米国はそもそも労働者を守る制度が徹底されているので、企業の不正防止への効果はあるといえるでしょう。
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