実際、「指導」と「パワハラ」の境界線について過去の判例をひもとくと、たとえ業務遂行目的だとしても、下記のような要素が含まれると、パワハラと判断されてしまう傾向がある。
逆にいえば、「業務遂行や育成指導のために必要なもの」であり、「合理的な内容」で、「相手に対する人格的な攻撃が含まれない」ならばパワハラではないと判断されている。
指導の際には理不尽な叱責と捉えられないよう、指示や指導の理由を明確にし、相手が不本意と感じるような言い回しや繰り返しは避けるよう配慮すべきである。具体的には、このような流れがよいだろう。
このように指導していけば、部下としても何が問題で、何をなすべきか理解できるはずだ。指導の目的は相手を畏怖させて支配することではなく、主体的に行動が変わることである。
「職場のいじめ・嫌がらせ、パワーハラスメント対策に関する労使ヒアリング調査」(独立行政法人労働政策研究・研究機構)によると、パワハラが起こる背景や原因にはさまざまな要素が絡み合っており、中でも「過重労働とストレス」「職場のコミュニケーション不足」「管理職の余裕のなさや教育不足、マネジメント能力不足」「成果主義や業績向上圧力」などの影響が大きいとされている。
すなわち、パワハラがまん延している企業の多くは、もうかっていないがゆえに低賃金で目標ばかりが高くなり、従業員たちに心の余裕がなく、当然コンプライアンスは後回しだ。そうなるとまともな人材は採用できず、営業成績を上げただけで自動的に上司となり、部下を動かすにもパワハラ的な言動しかできない……という悪循環となってしまうものと考えられる。
つまり、パワハラが発生する根本原因は「もうかるビジネスを営めず、コンプライアンスを確保できるほどの余裕が持てない経営者とマネジメントの問題」といえるだろう。
逆に言えば、組織内のメンバーが安心してコミュニケーションをとれる環境となれば、お互いの心理的安全性が高まり、情報共有がスムーズになり、職場に前向きな空気も生まれ、新しいアイデアも生まれやすくなることだろう。それによって、メンバー間と組織間における愛着が高まり、主体的な貢献意欲(エンゲージメント)が生まれる効果も期待できる。
ちなみに「心理的安全性」は、ハーバードビジネススクールで組織行動学を研究するエイミー・エドモンドソン教授が提唱した概念であるが、教授は管理職が心理的安全性を高める方法として以下の点を挙げている。
部下や後輩を持つ社会人は、心しておくべき内容だといえよう。
ぜひ、普段の職場内コミュニケーションでも実践されてみてはいかがだろうか。身近なところから心理的安全性を確立し、ハラスメントのない組織を実現してほしい。
働き方改革総合研究所株式会社 代表取締役
早稲田大学卒業後、複数の上場企業で事業企画、営業管理職、コンサルタント、人事採用担当職などを歴任。2007年、働き方改革総合研究所株式会社設立。「労働環境改善による業績および従業員エンゲージメント向上支援」「ビジネスと労務関連のトラブル解決支援」「炎上予防とレピュテーション改善支援」を手掛ける。各種メディアで労働問題、ハラスメント、炎上トラブルについてコメント。厚生労働省ハラスメント対策企画委員。
著書に『ワタミの失敗〜「善意の会社」がブラック企業と呼ばれた構造』(KADOKAWA)、『問題社員の正しい辞めさせ方』(リチェンジ)他多数。最新刊『炎上回避マニュアル』(徳間書店)、最新監修書『令和版 新社会人が本当に知りたいビジネスマナー大全』(KADOKAWA)発売中。
11月22日に新刊『「部下の気持ちがわからない」と思ったら読む本』(ハーパーコリンズ・ジャパン)発売。
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