日産、販売100万台増へ「新車攻勢」 “台数重視”の思わぬ落とし穴とは?(3/3 ページ)

» 2024年06月03日 11時00分 公開
[カッパッパtheLetter]
theLetter
前のページへ 1|2|3       

+100万台の実現性とはらむリスク

 「The Arc」の名が示すように、弧を描いて再び、台数、シェア拡大を達成することができるのか。もともと日産は2017年度では579万台と今年度の355万台に対し、+224万台の販売台数を記録。構造改革を進め、スペイン工場の閉鎖などで生産能力は調整したものの、+100万台を達成する工場は十分に準備できています。

日産の販売台数推移(筆者作成)

 この生産増に伴って、現在下がっている工場の稼働率を78%→90%にする計画です。工場の稼働率が上がれば、設備償却費などの固定費が薄まるため、採算性が向上します。なお発表資料には「中国を除く」という但し書きが左下に小さく記載されており、会見では中国を含めると稼働率は68%になることがコメントとしてありました。一度シェアを大きく落とした中国市場での挽回は容易ではなく、今後構造改革が進められていくことが予想されます。

工場稼働率の最適化(出典:日産自動車)

 +100万台、台数拡大の目標は達成できれば、日産の成長を示す重要な指標となりますが、具体的な台数を掲げたことによる懸念点もあります。それは台数重視による販売の質の悪化です。かつて2010年代の日産は、ゴーン社長のもと、販売拡大を推し進め、低価格ブランドの立ち上げやフリートでの販売増、販売奨励金の増加などにより、1台当たりの販売価格が低下。ブランドイメージも下がり、赤字の大きな要因となりました。

 「NISSAN NEXT」を経て、販売の質を向上させ、十分に黒字を出せるようになった日産が再び台数を追い求めることで、同じ轍を踏まないか、過去の反省を生かして「質」を維持したまま、台数を伸ばすことができるのかが、今後の日産の業績の鍵を握るでしょう。

 過去最高の売上高が見えてきた中で、さらなる成長を目指し、新車攻勢で販売拡大を掲げる日産新中計「The Arc」。具体的に各地域ごとの目標台数が示され、特性に応じた車種展開が計画の肝です。ただ販売拡大は諸刃の剣であり、安易に追い求めれば、かつての日産に戻りかねません。果たして日産は販売の質を維持したままで、+100万台の高いハードルを越えることができるのか。日産の今後の計画「達成率」に注目です。

本記事はtheLetterでのカッパッパさんの執筆記事「【日産新中計】全方位で+100万、弧を描く成長は実現できるのか」(2024年4月6日掲載)を、ITmedia ビジネスオンライン編集部で一部編集の上、転載したものです。

著者プロフィール

カッパッパ

Tier1自動車部品メーカーで働く入社10年を超えた中堅社員。普段は作業服に身を包み、工場と事務所、仕入れ先やお客さんとの間で、汗をかきながら現地現物をモットーに働く。

Xアカウント:@kappapa03


前のページへ 1|2|3       

theLetter

アイティメディアからのお知らせ

SaaS最新情報 by ITセレクトPR
あなたにおすすめの記事PR