しかし一方で、「国」という大きな主語を、「街」や「会社」と小さい主語に変えると、かすかな「光」も見えてきました。「街のみんなで育てよう」と子育てしやすい環境をととのえ出生率を向上させた自治体もでてきましたし、育児と仕事の両立を会社経営の問題として取り組んでいる企業もあります。
その企業の一つが、私が数年前に書いた「少子化対策の極論」に関するコラムを参考に、「全ての社員が休む権利」を作った、社員数800人の中企業F社です。
私は長い間、健康社会学者として会社サイドと現場サイド両者の声を聞いてきてきました。その中で痛感したのは、「不公平感による生産性の低下」です。日本の産休制度は海外と比べても「ワーキングマザーに優しい制度」なのに、ワーキングマザーは常に肩身の狭い思いをさせられている。一方で、子どものいない人たちは不満や不公平感を抱き、企業の生産性向上の土台である「社員同士のいいつながり」が失われていました。
そういった「人」のネガティブな感情や対応をなくし、全ての人が生き生きと働ける環境を作るには、「働く人たちの全員の権利」として職場を一定期間離れる制度設計を作るしかないと考えました。
そこでたどり着いたのが「育児休暇はなくしたらいい」という少々刺激的な意見でした。
育児休暇をなくし「働く人たちの全員の権利」として、10年に1度、1年間、誰もが休める制度を国が作る。育児でも、留学でも、ボランティアでも、海外旅行でも、介護でもいいので、通常の有給休暇とは別に、全ての社員が休めるようにする。
誰もが「1年間、留守にする」ようになれば、国だって、その期間の補てんをどうするかをもっと真剣に考えるはずです。全員が“当事者”。いっそのこと政治家たちだって、“当事者”になって、一年間留守にすればいい――。といった内容をコラムで提案しました。
そしてコラムの最後に「国が動かなくても“我が社”でできることがもっとあるのではないか? 企業のトップは是非とも知恵を絞ってほしい」とメッセージを書いたところ、F社から「もっと詳しく話を聞きたい」と連絡をもらったのです。
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