河野: 2つ目のポイントである「買物欲の未来の兆し」についておうかがいします。今回の調査で今後伸びていく兆しを見せたのは「偏愛性」と「ストーリー性」のキーワードでした。これは、前回の記事でも紹介した4象限の「LOVE&BOOST」にあたりますが、この兆しの背景には何があるのでしょうか。
増田: 「偏愛性」に関する話題量の推移について、2020年のコロナ禍以前は右肩上がりの増加傾向にありました。その後少し減少し、2023年から再び話題に上がるようになりました。その背景には、コロナ禍におけるリアルライブやイベントなどの中止の影響が大きいと思っています。会場に足を運び、自分の「推し」を応援していた人たちが、「ライブ以外での推しの応援方法」をいろんな方向で考えるようになったことで、いろいろな“推し方”が登場しました。
さらにそれがSNSで広まったことによって、もともとアイドルファンを中心に好きなアイドルを応援することを「推し」と言っていたのが、さまざまな界隈の人たちにも広まりました。コロナ禍をきっかけにリアルでのコミュニケーションが減り、不特定多数の人に広まるSNSが中心となったことで、さまざまな形の応援をしているファンが可視化され、新たな推しの応援方法も確立されていったわけです。これが「偏愛性」のキーワードが伸びた要因だと分析しています。
河野: 「推し」という言葉が生まれたことで、よりアイドルやアーティストを応援しやすくなっていますよね。特に特徴的だった投稿や、気になるポイントがあれば教えていただけますか。
増田: 最近の動きとして、コロナ禍では「推しのために応援する、お金を使う」というニーズが多かったのが、最近は推しに直接お金は還元されないけれども、普段の日常生活に推しを取り入れるようなトレンドが際立ってきています。
例えば、推しのイメージカラーを服やコスメといったファッションに取り入れたり、日常にも推しを感じられる行動が増えてきたのが面白い点だと思いますね。推しの対象が「色」という形で概念化し、それが一般化したもので「概念消費」とも呼ばれています。いろんなカラオケ店では「推しドリンク」を販売しており、自分の好きな推しのカラーと同じ飲み物を注文してSNSに投稿するのもよく見られますね。
推し活をするモチベーションが、“自分の日常を良くするための行動”に移ってきているのは、非常に興味深いことだなと感じています。
河野: 推し活が日常に溶け込んでいるのは面白いですね。以前も、推しのイメージカラーはあったと思いますが、こういった意識変化はなぜ起きているのでしょうか。
増田: SNS上で多かったのは、ライブに行くときに推しを応援するための「推しコーデ」で、それがもっとラフな感じで日常に反映されてきたのかもしれませんね。推しカラー以外にも、推しの誕生日を祝うために自分の家でケーキを作ったりと、「日常的に推しを感じていたい」というマインドが、コロナ禍を経てより高まったのではないでしょうか。
最近の傾向として、推しを応援するだけ、好きなだけではなく「推しが好きなものまで好きになる」というのもあると思います。推しが好きなものにハマったり、自分の興味・関心が広がったりすることで、さらに偏愛が深まっていくといったサイクルが生まれているんですよ。
橘田: ほかにも、推しのイラストを描いて自分のSNSのアイコンにしたり、印刷してアクリルスタンドにしたりと、生活者同士の間でも、自分なりに表現したものをお互いに共有し合う流れが出てきています。VTuberだと、配信の感想とイラストのハッシュタグを決めていて、生活者もそのハッシュタグを追うことで、そこから自分の好きなイラストを探して壁紙に設定できるようになっているんですよ。こうしたコミュニティ作りや拡散の仕方から、企業も学べるポイントがたくさんあるのかもしれません。
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