好調の要因として、まずは出店戦略の見直しが挙げられる。これまで出店する場合は駅の乗降客数5万人を目安にしてきたが、競合がなければ2万人台でも出店するように変更した。また、これまで出店していなかったロードサイドを開拓。2024年2月期決算短信によれば、新規出店した18店のうち半数の9店がロードサイドであった。
商品としては、2023年3月に発売した「日高ちゃんぽん」、同10月に復刻した「温玉旨辛ラーメン」、さらに季節商品の「冷麺」や「チゲ味噌ラーメン」などが好評を博している。最近はお酒に合う辛いメニューが増えており、同年12月に「ドラゴンチキン」「明太子ボテトサラダ」などもメニューに加わった。ドリンクでも、紹興酒を使った「ドラゴンハイボール」や、ウイスキー「陸」を使った「陸ハイボール」を相次ぎ投入。ちょい飲みを強化した結果が好業績につながった。
ラーメンの種類が増え、ちょい飲みを視野に入れた定食メニューで業績回復を狙う幸楽苑は、日高屋の牙城である駅前に対応する業態に変化してきた。今後の駅前進出もあり得るだろう。一方、辛いメニューやアルコールの強化で、ちょい飲みの需要を喚起する日高屋は、定食メニューが終日食べられることから客層が広く、野菜たっぷりタンメンのヒットで女性客にも強い。幸楽苑の牙城であるロードサイドへの出店加速へと舵を切った形だ。
両チェーン共に、タッチパネルや配膳ロボットを活用して人件費を抑えていること、セットで割引するメニューで単価を上げるのに成功している点も、戦略が似ている。
従来の「ロードサイドの幸楽苑」に対して「駅前の日高屋」という、それぞれの出店エリアが異なり、住み分けがなされてきた時代は終わりつつある。今後は餃子の王将と大阪王将を加えた、町中華の4大チェーンが競り合いながら、後継者難で減少する個人店に代わって、全国に浸透していくのではないだろうか。
長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)
兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。著書に『なぜ駅弁がスーパーで売れるのか?』(交通新聞社新書)など。
幸楽苑の“低迷”はどうなる 「安くてうまいものを提供する」ビジネスの行方
「290円ラーメン」終売でもまだまだ安い幸楽苑、なぜコロナ禍が明けても不調が続いているのかCopyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
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