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物流2024年問題、どこ吹く風で成長するフジHD 何が明暗を分けた?運送会社社長のためのポスト24年問題生存対策会議

» 2024年07月12日 08時30分 公開
[ほしのあずさITmedia]

 2024年4月、トラックドライバーの時間外労働に年間960時間の上限規制が設けられた。1日の拘束時間も原則13時間以内、最大15時間以内に改正され、輸送の滞りを懸念する「2024年問題」に直面している企業も少なくないだろう。

 そのような状況を踏まえ、物流ニュースサイトを運営するLOGISTICS TODAY(東京都新宿区)は、6月27〜28日に「運送会社社長のためのポスト24年問題生存対策会議」を開催した。

LOGISTICS TODAYは「運送会社社長のためのポスト24年問題生存対策会議」を開催した(画像:LOGISTICS TODAY提供)

 2024年問題に関するパネルディスカッションでは、ゲストにフジホールディングス(東京都港区)代表取締役 松岡弘晃氏が登壇。LOGISTICS TODAY編集部の赤澤裕介編集長とITmedia ビジネスオンライン編集部の秋山未里副編集長が公開取材として2024年問題にどのように対応したのか話を聞いた。

 フジHDは、奈良市に本社を置くフジトランスポート(旧、富士運輸)を中核とし、16社を傘下に抱える運送会社グループだ。従業員数は3152人、トラック台数は2823台を誇る。同社の創業は1978年にさかのぼる。富士運輸として、従業員6人、トラック5台からスタートした。

 2001年に代表取締役に就任した松岡氏は、運送業の「薄利多売」というビジネス性質を理解し、大規模化を目指すとともに、会社として狙うセグメントを設定することで、着実な成長を積み上げていくことに成功した。

 コロナ禍で業界がダメージを受ける間も、M&Aや営業譲渡を重ね、拠点数を51まで増やした。事業所数もコロナ禍前の77拠点から2024年6月現在、128拠点まで増加させている。

2001年の社長交代時に注力領域として5つのセグメントを設定した(画像:フジホールディングス投影資料より)

 各社が「2024年問題」の対応に奔走する中、どこ吹く風で成長を続けている。2024年のグループ年商は580億円を記録しているが、強さの根源はどこにあるのか。

「走れない運送会社はやめる」退職するドライバーも……どう対応?

――2024年問題に対して、フジグループはどのような取り組みをされましたか?

松岡: 2024年の4月に物流業界にも適用された「働き方改革関連法」の内容は実は、2018年6月に成立しているんですよね。法律は必ず施行されるので「これは取り組まないといけない」と思い、2019年より労働時間に関する対策を始めました。

 まずは従業員、特にドライバーには労働時間の規制が厳しくなることを伝えました。

 決められた労働時間の中で仕事をするということは、一日当たりの給料を増やさないと生活できなくなります。これから運賃を上げて皆さんの手当も上げるようにするから、休みが増えたり総支給が減ったりするかもしれないけど、法律を守る体制を敷かなければいずれは走れなくなる、と。5年前から徹底的に説明して、労働時間を短くしていきました。

フジHDでは2019年から「2024年問題」を見据えた対策を行っていた(画像:フジホールディングス投影資料より)

――説明会をしたときのドライバーの反応はどうでしたか?

松岡: それぞれ自分の生活があるので「稼げなくなる」とか「走れない運送会社はやめる」と、退職したドライバーが結構いました。

 例えば、1週間に関東関西間を3回走っていたドライバーが、今週は3回、来週は2回と減ってしまいます。減った分できる限り手当を渡していましたがそれでも追いつかず、実質賃金が下がるかたちになってしまいました。それで辞めてしまうドライバーもいました。

 お客さまに交渉したところ「下請けなのに法律を守ってしかできないなんて」と、他社に切り替えられた時期がありました。そこで仕事はかなり減りましたが、仕方ないと割り切りましたね。

 ただ、中には法律を守ることに対して前向きに取り組んでいたお客さまもいたので、ゆるやかにシフトできました。

――その時点で、経営者としての不安はありましたか?

松岡: 仕事が減ることへの不安はありました。しかし当社は、道路交通安全のためのマネジメントシステムの要求事項を定めた「ISO 39001」を取得して、ドライバーの労働時間の短縮をはじめ道路交通安全に対する意識を高めていきました。

 安全重視の運行会社であることを武器にしていると「ぜひ使いたい」と手を挙げてくれるお客さまが増えてきました。今はうちだけでなくグループ会社も「ISO 39001」を取得しています。

自社トラック増加にSNSの活用 どんな効果があった?

 フジトランスポートは、2024年問題対策として「改正される法律の内容を従業員に説明」「労働時間短縮によるドライバー給与の増額対策」以外に、「自社トラックの大幅増車」「自社の拠点増加とM&Aの強化で拡大」「ドライバーの採用強化、SNSの活用」に取り組んだ。

 赤澤編集長は「フジトランスポートさんの自社トラックの大幅増車はインパクトがありました」と当時を振り返った。

――当時、トラックを1000〜1500台持っているのに追加で数百台買われていました。しかもずっと買い続けていると聞いて、ものすごく強気だと思っていました。裏ではドキドキされていましたか?

松岡: そうですね。日野自動車さんが2017年に新型を発売したときも400台以上発注しました。トラックは、購入後に仮に使えなくなった場合、売却します。その際、いかに高く売れるメーカーのトラックかというのはすごく大事です。

 今、中古車の市場価格でいうと日野さんの車が一番高いんですよ。であれば、同じ投資であっても日野さんのトラックを買っておけば、最悪困ったときに売却すれば助かるだろうという考えだったのが本音ですね。

――トラック投資については、他にどのような取り組みを行いましたか?

松岡: 自社でマルチトラックを開発しました。日本国内を走るトラックって種類がいっぱいありますよね。〇〇仕様とか、どこどこの荷主仕様とか……。

 特定のお客さまや用途に限定されるトラックは、その仕事が減った際に他での活用が期待できないという悩みがありました。運送会社にとって専用車は、時に足かせになってしまうんです。そこで私たちは、さまざまなお客さまの荷物が積める車を開発しようと考えました。

 例えば、関西から関東までの経路で行きは家具、帰りは航空貨物を積むとします。ところが家具を積むトラックと航空貨物を積むトラックは車種が違うんですね。それをできるだけマルチ化しようとマーケティングリサーチをして、いろいろな形状の荷物が積めるトラックをトラックメーカーとボディメーカーと共同開発しました。

 そして共同開発したマルチタイプのトラックを、リーマンショックのときに100台発注しました。このトラックによって、どんなお客さまの荷物も積めることが強みになり、売り上げが伸びました。

 特長として、当社のトラックは他の運送会社さんよりもボディが長いです。通常の大型トラックはボディの内寸が9.6メートルで、16枚のパレットを搭載できます。そこをわれわれは10メートルの内寸で18枚積めるようにしました。

 そうすると、これを武器に「2枚多く積みますので運賃を多めにいただけませんか」と提案できるようになります。このような差別化戦略で拡大していきました。「われわれは運び方改革としてこういうことをやりますから、1台でもトラックを減らしましょう」と伝えると、喜ばれることが多いですね。

マルチトラックの開発にも取り組んだ(画像:フジホールディングス投影資料より)

――この頃、フジトランスポートで働きながらYouTubeに動画をアップするドライバーが出てきました。こういったのを認めたことも、2024年対策があったからですか?

松岡: たまたまではありますが、shimijunくんがYouTubeを始めたことで、副業としてYouTubeは認めようと就業規則を変更しました。これが転機となって、他社でYouTube副業を禁止されていたドライバーさんなどがどんどん入社してくれるようになりました。

 2024年問題対策って、1つだけではないんですよね。採用もそうですし、仕事が増えるとトラックも購入しないといけない。トラックが増えれば整備も必要だとか、さまざまなことを多面的に考えていく必要があります。単に拡大するだけでは法律を無視する運営につながりかねないので「ISO 39001」を取るとか、慎重にいろいろな取り組みを行ってきました。

社員のYouTube副業を認めたことも、働き方改革を推し進めることに(画像:フジホールディングス投影資料より)

――フジグループとして、2024年問題はどのように見えていますか?

松岡: 2024年問題について昨年くらいから大変だと騒いでる人が多い印象ですが、はっきり言うと、今から取り組んでも手遅れな部分はあると思っています。きちんと先読みをして取り組んだ企業と取り組まなかった企業で、この4月以降の明暗が分かれたと感じています。


 長時間労働が常態化していた運送業界。このまま何も対策をとらなければ、輸送能力の不足により2030年には全体のうち約35%の荷物が運べなくなると懸念されている。

 「翌日配送」「当日配送」が当たり前の価値観になりつつある世の中で、対策に乗り遅れた企業は消費者に選ばれなくなるかもしれない。働き方改革の中でどれだけ自社の運送効率を高められるか、各社の手腕が問われている。

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