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定年後の嘱託社員、最低賃金での雇用はアリなのか?増加する、60歳超えの労働者(1/2 ページ)

» 2024年02月02日 08時30分 公開
[佐藤敦規ITmedia]

 厚生年金の支給繰り下げや晩婚化に伴い、60歳以降も働く人が増えています。内閣府「令和5年高齢社会白書」によると、男性の就業者割合は、60〜64歳で83.9%、65〜69歳で61.0%、女性の就業者の割合は、60〜64歳で62.7%、65〜69歳で41.3%に達しています。

 60歳以降の給与がそれ以前と比べて、どの程度減少するのか気になる人は多いでしょう。契約社員として継続雇用された場合、60歳までの6割程度に下がるのは許容されているといった話を聞いたことがあるかもしれません。法律上、どうなっているのかを解説します。

再雇用社員の給与問題を法律の観点から考える(画像:ゲッティイメージズより)

定年は60歳 給与は6割程度が一般的

 法律(高年齢者雇用安定法)上では、本人が希望すれば65歳まで雇用することを義務付けていますが、正社員ではなく嘱託や1年更新の契約社員という形態でも可としています。

 定年を廃止したり、65歳まで延長したりする企業は増えていますが、それでも定年は60歳に据え置き、以降は嘱託や契約社員として雇用する会社の割合が依然高いです。全企業では66.4%、301人以上の企業では77.2%が定年を60歳としています(厚生労働省 令和5年「高年齢者雇用状況等報告」の集計結果)。雇用形態が変わる場合は、誕生日を迎える前に新たな条件を説明して労働者が合意すれば契約するという仕組みとなっています。

企業における定年制の状況(画像:厚生労働省 令和5年「高年齢者雇用状況等報告」」より)

 また定年を機に起業したり、個人事業主に転向したりする人もいますが、多数派とはいえません。その結果、60歳の定年まで勤務していた会社に正社員から嘱託や契約社員へと雇用形態を変え、勤務し続ける人が多いのです。

定年後の雇用継続、最低賃金でもよいのか?

 では雇用形態を変え、継続雇用となった場合に、60歳までと比べてどの程度の減額が許されるのでしょうか? 答えは「法律上には明記されていないので企業や個人によって状況が異なる」というものです。極端な話、最低賃金法に反しない限りは、企業が自由に決めることができますので、労働者が合意したのであれば、企業が属する都道府県で定められている最低賃金をクリアすれば問題ないといえます(参照:高年齢者雇用安定法Q&A)。

 もっとも無制限に給与を下げられてしまったら、働く側もたまったものではありません。実際、裁判に発展した事例も存在しています。その中でも有名なのは「名古屋自動車学校事件」です。労働者の生活保障の観点から基本給が60%を下回るため、名古屋高裁は違法と判断しました。この判例から「60歳時と比べて40%を超える減額は避けたほうがよい」という暗黙の了解が広がりました。6割以上という数字は、労働基準法の休業手当(平均賃金の60%以上)の額ともリンクしているように個人的には考えています。

 しかしながら名古屋自動車学校事件について昨年、最高裁は名古屋高裁に判決のやり直しを求めました。基本給の6割を下回ったからといってそれをもって違法とするのではなく、嘱託職員の基本給は「正社員とは異なる性質や支給目的がある」とし、詳細に検討すべきだとの判断です。この最高裁の判断をもって、継続雇用の給与体系を見直す企業もでてくるかもしれません。

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