冒頭では、CFOが管掌する範囲の広がりと、経理組織への機能高度化のニーズの高まりをお伝えしました。一方で、そんな期待に応えるどころではない深刻な課題を抱えている経理組織は少なくありません。
企業活動のグローバル化やデジタル社会の進展に伴い、会計基準や法律、東証の規則など、会計に関連するさまざまなルールや法律が改正されています。金融商品引法(J-SOX)、IFRS、四半期決算、リース会計基準、電子帳簿保存法、ESG情報開示、人的資本情報開示。これらはその一部に過ぎません。
なぜ、経理部はいつも忙しそうにしているのか。なぜ、決算は毎回同じことをやっているように見えるのに、いつも長時間残業しないといけないのか。その大きな要因の一つが、こうした制度変更への対応です。事業環境の変化やテクノロジーの進化による事業内容や事業形態の変化は、それを管理するためのさらなるルールの追加・変更をもたらし、その頻度や複雑性は高まるばかりです。
さらに、グローバルに事業を展開する企業では、サプライチェーンの多様化によって新しい国や地域の法規則への対応が必要になっています。取り引きに使う通貨の種類も増え、各国の送金規制や為替リスク、移転価格への対応など、単に業務量が増えるだけでなく、新たなナレッジやスキルも必要になっています。
リーマンショック以降、多くの日本企業が固定費削減を進める中で、経理財務部門もスリム化が進みました。限られた人的リソースで知恵を絞り、汗を流し、最小限の投資で、乾いたタオルを絞るように業務効率化に取り組み、環境の変化に対応してきました。
若手を中心に終身雇用のスタイルは崩れつつあり、この傾向は経理組織も例外ではありません。さらに昨今は現場で最も戦力を発揮する中堅世代においても流動化が始まり、組織のスキルやナレッジの継承が困難な状況を招いています。
それだけでなく、現行業務が回らなくなり決算の遅延や場合によっては決算修正に至る可能性も否定できません。また、人材の流出による業務負荷の増大は、個々人の仕事に対するエンゲージメントの低下を招くと考えられます。
人材の流動化は外部人材を獲得しやすいという点ではメリットですが、一時的には現場の混乱や生産性の低下を招き、何より、すぐに優秀な外部人材を獲得できるような企業はそう多くはありません。
2000年以降の会計ビッグバンやJ-SOX、IFRS/コンバージェンスなど、会計のグローバル化に対応するために多くの企業がSAPやOracleなどの外資系ERPを導入し、会計システムとして利用してきました。
しかし、日本企業の経理の現場ではExcelを多用した手作業への依存度は高く、決算期間中の長時間残業も解消されたとは言えません。この状況は、国産のERPや会計パッケージを利用している企業も同様です。
詳細は次回以降に解説しますが、この“手作業への依存”が前述の「従来機能の複雑化と負荷増大」「経理人材の流動化」をより深刻なものにする要因となっています。
現場の課題を解決しなければ、経理機能を高度化することも、高度化に必要な組織やプロセスの改革を進めることもできません。そこで、現場の課題を解決し、さらなる高みを目指すための土台・基盤づくりである「人材の確保・育成」「マニュアルワーク最小化」「デジタル化推進」の3つのテーマに焦点をあて、現場の実態と対策について、統計や事例を交えながら次回以降で解説したいと思います。
次回以降のテーマはこちら!
なぜ、基幹システムのリプレースは大失敗するのか 日本企業に足りない「ある役割」
経理の3割「半年前より残業が増えた」 なぜか?
ミスは許されない──経理の7割が「入金消込に課題」 効率化進まぬ実態は
取引先ごとに“バーチャル口座”を用意──請求書管理「Bill One」が、銀行サービスを始めるワケCopyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング