現在のファイナンス組織は、前例にない環境変化と不確実性の渦中で、3つのジレンマを抱えている。1つ目は、人材不足で従来業務の遂行すら難しい中で、ビジネス・パートナーとしての役割高度化にも並行して取り組まなければならないこと。2つ目は、既存事業の深化と新規事業の探索、あるいは求心力と遠心力といった背反するテーマを扱わなければならないこと。3つ目は、短期的な株主価値を求めるアクティビストと対峙する一方で、マルチ・ステークホルダー経営を推進しなければならないことである。
本連載では、これらのジレンマの解消に向けて、最新のデジタル技術をどのように活用すべきかを解説する。初回となる今回は、「既存の成果を上げ続けながら改革に挑むジレンマ」をデジタルで解決する糸口について取り上げる。
現在、多くの企業のファイナンス部門が、切迫した状況に置かれている。中には現状業務を継続するための工数確保すら難しくなっているケースも少なくない。背景には、労働人口の減少や団塊世代の大量退職といった人口動態の変化に加え、リモートワークなどの働き方の変化、また若年層を中心とした就業意識の変化などがある。
その一方で、ファイナンス部門は非財務情報の開示・活用やBEPS2.0をはじめとした国際課税強化など、新たなレギュレーションへの対応に迫られている。また、ファイナンスの役割を正しい記帳を中心とした伝統的なスコア・キーパーから、経営者や事業責任者に寄り添い意思決定に能動的に関与するビジネス・パートナーへと、大きく変えることが求められている。さらには近年、パンデミックや大規模災害、地域紛争など、一時的に業務中断に追い込まれるリスクが顕在化している。
こうした状況に対応するためには、効率的で筋肉質なリーン・オペレーションを実現するだけでは不十分だ。より柔軟かつ強靭(じん)に危機や困難から回復できる、レジリエントな(回復力がある)オペレーション・モデルを構築する必要がある。こうして1つ目のジレンマを解決することが、2つ目、3つ目のジレンマに取り組む第一歩となる。
レジリエントなファイナンスの構築に向けて、デジタル技術が重要なカギとなることは間違いない。ただしその使い方には一定の留意が必要だ。
最新のERPシステムの導入が、既存の基幹システムの単なる入れ替えになっていないだろうか。また、さまざまな先端ソリューションの活用が、一部の特定業務機能の自動化や効率化にとどまり、効果を最大化できていないのではないか。
レギュレーション変更や役割変革などの新たなチャレンジに向けて余力を創出するためには、自動化・効率化は必要である。しかしながら、法制度や経営環境は断続的に変化する。足元の要件に応える自動化・効率化のみではワンショットの対応ができても、環境変化に強い真にレジリエントなファイナンス・オペレーションを構築、メンテナンスすることは難しく、巨額のシステム投資も正当化できない。レジリエント・ファイナンスの実現、ひいてはCFOの3つのジレンマの解消に向けて、デジタルをどう活用すべきか再考が必要だ。
そこで本稿では、
の4つの論点をメインに、論述を進めたい。
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