ヒューマノイドロボットを開発する企業の動きも速かった。BMWと契約したFigureは、すでに生成AIによる行動生成を試し始めている。2024年2月には、生成AIのキープレイヤーであるOpenAI、マイクロソフト、NVIDIAなどから、総額6億7500万ドルの資金を調達した。
生成AIの進化により、自ら考え、行動を生成するヒューマノイドロボットも夢ではなくなりつつある。しかし、Figureに投資したAI企業には、純粋にヒューマノイドロボットが生み出す市場の将来性とは別に、もう一つの“狙い”があると思われる。それはデータである。
GPT-4からGPT-4oへと、おそらくはハードウェアの増強やモデルの進化が繰り返された結果、回答精度の継続的な向上に加え、応答速度の劇的な高速化が実現した。
AIに必要な学習データは、既存のデータを整理するなどして質の向上を図ったり、新たなデータをインターネットから収集したり、クラウドソーシングのような人力作業で作り出したりしても、まだ、足りないデータがある。モデルをもう一段高度化するためには、文字や画像に加え、人間が成長の過程で獲得する“身体的体験”に関するデータが圧倒的に欠けている。
例えば、私たちはネジを回す際、はじめは緩く簡単に回るが終いにはきつくなり、締める力を調整しなくてはいけないことや、うまく調整しないとネジ山を壊すことを体験から学ぶ。ねじ回し一つとっても、行動はできても実際に有効なスキルの獲得には、手の感覚と経験がものをいう。
そこでAIにとって有望な身体的体験となるのが、ヒューマノイドロボットである。
大規模言語モデルは、人間の考えや経験を文章や画像から学習したものである。このため、ロボットの躯体としても、産業用ロボットのような人型ではないロボットよりも、人型のヒューマノイドロボットが良いと推測される。将来的に工場の生産現場で人に代わり、数万台の規模でロボットが働くようになれば、モノを運んだり将来的にはボルトを締めたりなど、生産設備を操作する中から得られるデータはインターネットにはない“貴重な経験(データ)”になる。
また、ロボットの躯体の標準化も重要なキーになるだろう。どのような制御が良いのかは、AIが操作するロボットに依存する。もちろん、コンピュータシミュレーションによって、物理的な操作を仮想的に体験し、データを収集する手法も考えられるが、材質や加工により微妙に異なる。物的特性までも精密にシミュレーションするのは容易ではなく、実際のロボットと作業現場があるなら、じかにデータが得られるに越したことはない。
こうした観点により、大量の労働力とさまざまな作業が求められる自動車工場の生産現場は、“経験値”を積む上ではうってつけなのである。
近い将来、生成AIのフロンティアを走る企業らは、ロボットから取得されるデータを元に、より精巧な世界モデルを獲得するだろう。その先には、ヒューマノイドロボットと人が協働する未来が待っているに違いない。
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