なぜ、月極駐車場に注目? ニッチすぎる存在をDXで“宝の山”に 驚きのビジネスモデルに迫る(3/3 ページ)

» 2024年07月30日 05時00分 公開
[大関暁夫ITmedia]
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駐車場をハブにさまざまなサービスを構想

 上場を果たしたハッチ・ワークは、今後どのような展望を描いているのでしょうか。増田社長は「上場を機に次のステージに移行し、DX推進で集めたデータを活用する戦略に乗り出す」としており、月極駐車場を「単なる車を止める場所」から「付加価値を生み出す場所」に変えていくと意気込んでいるようです。

 より具体的に、ハッチ・ワークは月極駐車場を活用した未来予想図として「ファーストワンマイル構想」を提示しています。

 ファーストワンマイルとは「自宅からの最初の一歩」を表す表現であり、生活に隣接した月極駐車場を、モビリティから派生する多様なサービスを提供する新たな拠点として位置づけていこう、という狙いが込められているビジョンです。コンビニなどが自宅への物流の最終拠点として「ラストワンマイル戦略」を繰り広げていることに呼応する、より高い利便性を実現する新しい生活空間づくりまで視野に入れた、次世代戦略であることが分かります。

ファーストワンマイル構想として、さまざまなサービスの可能性を提示している(出所:ハッチ・ワーク公式Webサイト)

 その第一歩として増田社長が挙げているのが、EV利用者数に基づいたEV充電機の設置推奨を通じ、全国でEV充電ステーションの拡充を図るというものです。EVカーシェアリング・ステーションとセットで運用すれば、生活圏における災害時の家庭向け電源供給ステーションにもなり、社会貢献的な活用も可能な取り組みです。すると、月極駐車場自体の付加価値が上がって賃料にも反映でき、貸主・借主をはじめとした近隣住民、そしてハッチ・ワークも含めた「三方良し」が実現します。

 EV充電ステーションに加え、収集データの活用によるニーズ把握を通して、駐車場内でキッチンカーなどによる飲食の提供、車のメンテナンス、カーシェアリングやレンタカーの乗り捨てステーションといった構想も描いており、同社は既に月極駐車場をハブとした新たな経済圏創造のプラットフォーム化までを視野に捉えています。50年以上にわたって月極駐車場は遊休資産化していました。そんな未開の地で、DXによるワンストップ・ビジネスを展開する同社はモビリティ界のダークホースと呼べるでしょう。

神戸市による第三セクターとの実験も開始

 直近では、神戸市が大部分を出資している第三セクターの「こうべ未来都市機構」と協力し、ファーストワンマイル構想の社会実験を開始しました。アットパーキングクラウドの導入をベースに、駐車場をモビリティサービスのハブとして市民の交通利便性を向上するとともに、新しいコミュニティーの場としての実験を行っていくとしています。

 資源に乏しい日本で、貴重な遊休資産に新たな価値を持たせて未来につなげる、大きな野望の実現は決してたやすいものではありません。しかし、神戸市が協業に動いたことからも、その一見すると奇抜にも映るビジネスモデルの目の付け所に、誤りはないと思えます。ニッチなビジネス領域から経済のメインストリームへ躍り出る日は、意外に近いかもしれません。

著者プロフィール・大関暁夫(おおぜきあけお)

株式会社スタジオ02 代表取締役

横浜銀行に入り現場および現場指導の他、新聞記者経験もある異色の銀行マンとして活躍。全銀協出向時はいわゆるMOF担として、現メガバンクトップなどと行動を共にして政官界との調整役を務めた。銀行では企画、営業企画部門を歴任し、06年支店長職をひと区切りとして円満退社した。その後は上場ベンチャー企業役員などとして活躍。現在は金融機関、上場企業、ベンチャー企業のアドバイザリーをする傍ら、出身の有名超進学校人脈や銀行時代の官民有力人脈を駆使した情報通企業アナリストとして、メディア執筆者やコメンテーターを務めている。


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