値上げによって1000円カットではなくなったが、悪影響はないのだろうか。同社によると、2度の値上げによる影響は限定的であるという。1度目の値上げを実施した2019年6月期の売上高は208億円と、前年から10億円以上伸び、利益も改善している。その後の2020年6月期から2024年6月期における既存店業績の前年比数値は次の通りである。
客数:84.3%→97.6%→107.6%→102.6%→101.4%
売上高:87.9%→97.1%→107.8%→107.0%→110.4%
2020年〜21年6月期はコロナ禍の影響を受けたものの、次年度以降は回復しており、3度目の値上げによる影響が大きいとみられる2024年6月期も前年を上回る客数となった。これらの数値から計算すると、2024年6月期の対コロナ禍前(2019年6月期)客数は92.1%である。対コロナ禍前比で9割という数字は飲食チェーンと同等であり、値上げではなく単に人流の影響が大きいといえる。
理髪店を頻繁に利用する人は多くないため、1000円が1350円になったところで影響は小さいと考えられる。また「サンキューカット」や「カットファクトリー」という競合がいるものの、首都圏の駅前を押さえているのはQBハウスであり、値上げ耐性は強い。
ベアなどの施策が功を奏したのか、正社員の離職率も低下しており、同社は人員確保にもめどが立ったとアピールしている。2024年6月期3Q時点で国内店舗は542まで減少したが、今後はこれまでの縮小路線を一転し出店を再開する方針だという。現社長は再値上げも視野に入れており、人員の需給状況次第では1500円、2000円へと値上げするかもしれない。
なお、同社はQBハウスの他にも「QBプレミアム」を国内で7店舗展開している。価格は店舗によって1800円か2000円で、基本的な内容はQBハウスと同じものの、アプリでの予約が可能な他、スタイリングなどのサービスも付いている。今後QBハウスが2000円近くまで値上げする場合は、こうした付加価値を付けていく必要があるだろう。人手不足が加速する昨今、平成の不景気下で生まれた最低限のサービスを格安で提供する「デフレビジネス」が限界を迎えようとしている。
山口伸
経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。 X:@shin_yamaguchi_
「2400円カット」に予約殺到 女性ターゲットだった同社の“誤算”
カット1650円の「QBプレミアム」が、過去最高を更新しているワケCopyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
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