新田: Aさんは、大塚食品工場内の衛生管理にまつわる内部告発が機能せず、公益通報をしたものの報復人事の被害に遭われた事態について提訴されたわけですが、これまで同社内で何らかの不祥事が発覚した際、会社側は再発防止策の実施や関係者の処分など、適切な対処はされてきたのでしょうか。それとも、隠蔽(いんぺい)体質が常態なのでしょうか。
A氏: 大塚食品は、過去にも意に沿わない社員に対して報復人事をしてきました。例えば2014年、社員の4分の1から3分の1をリストラしようとしたことがありました。これは当時新聞報道もされましたが、その際にも、退職に応じなかった社員に対して降格、転勤、配置転換などの報復人事が多く行われたことを、私はこの目で見ています。
そして本件訴訟にかかる事件が発生する前、2016年にも、大塚食品が総合衛生管理過程変更手続においてHACCP(総合衛生管理)違反となる資料を近畿厚生局に提出していたことに関し、コンプライアンス担当取締役に対し内部通報をしたことがあります。
その結果、違反の資料は取り下げられましたが、当該問題は社内では伏せられ、違反をした管理職たちが責任を取ることはありませんでした。代わりに、通報者である私が、内部通報の3カ月後に、他の工場への転勤となる左遷人事を受けました。
また、私がこの訴訟で問題とする公益通報を行う直前の時期にも、職場内でマタハラ事案が発生しています。これは、管理職男性が女性社員に対して「お前が産休を取るから俺が大変になる」と公然と述べたもので、私ではない別の社員が内部通報したことで発覚しました。しかし会社側は、マタハラ発言をした管理職男性と被害者である女性社員のみにヒアリングしただけで、その場にいた多数の同僚目撃者には一切ヒアリングしませんでした。結果として、管理職男性はおとがめなし。それどころか、通報した側の方が3カ月後に退職してしまったのです。
私は、これらの経緯があったことから、社内の内部通報窓口、コンプライアンス部は信用できませんでした。それが、この訴訟で問題となる公益通報を、外部である滋賀県食品安全監視センターに対し行った理由です。
新田: 現場最前線で品質管理を担当されている方からの内部通報だというのに、会社側は本当に何も対応しなかったのですか。
A氏: 県から会社に指導がなされましたが、それに対して会社は最低限の対応しかしておらず、従来同様、都合の悪い事案はすべて伏せ、社内への周知、再発防止に向けての十分な対応を怠っています。
非食品用ポリ袋は、10年近く使われていました。会社は、非食品用ポリ袋自体が異物検出の原因ではないと発表していますが、ではなぜ異物が混入したのか。会社では、その発生源を特定するまでの調査をしていません。外部検査機関への試験依頼内容と結果はともに伏せられたままとなっており、十分に安全を保障出来るものとは言い難い状況です。
またポリ袋の件以外にも不祥事があります。品質管理室内で製品の試験や検査をやるために用いる「実験流し台」という、常時清潔に保たないといけない所があるのですが、そこで男性パート従業員が複数回にわたって小便をしていたことも発覚しているのです。
発生当時、取締役が東京から飛んできて、人払いさせたうえで実況見分をしていました。しかし当該男性パート従業員が定年退職するまでの1年間、会社側は聞き取り調査もせず、事態の調査が出来なくなるまで時間稼ぎをして伏せ続けました。この件もゴミ袋事案と同時に内部告発していますが、私としては、いずれの事案についても、会社が隠蔽しようとしたと考えざるを得ません。
新田: そのような度重なる会社側の姿勢に疑念を感じられ、公益通報されたのですね。
A氏: そうです。このような状態を放置すると、再び新たな衛生問題とその隠蔽が生じるのではないかとの危機感から、私は、社長と親会社、グループ会社への内部通報を追加で行いました。その結果、通報者が私であることの特定につながり、後の報復人事を受けることになったと認識しています。
2023年4月に異動を命じられましたが、異動先では監視カメラが向けられた状態で執務し、十分な仕事を与えられず、多くの時間を待機状態とさせられ、畑違いの本事務所へ座席を置かれ、コロナ禍を理由に工場内への移動を制限され、他部署との連絡も自部署と他部署の双方の管理職に許可を取らないと仕事の話も出来ないなど、理不尽なものでした。
新田: 会社側の公式発表では「公益通報を理由に、違法な人事異動や異動後の取り扱いを行ったことは一切ございません」と表明していますが、一方でそのような、実質的に監視体制下にあるような勤務環境を強いられては、「報復目的」と指摘されても否定できないですね。
A氏: 会社が行った人事は「報復」と言わざるを得ません。本事務所内での軟禁および課長の週2回の監視来場、仕事の取り上げ、孤立化。仕事も出来ず、PCに向かって座り続け、定時が来るまで耐え忍ぶ日々がどんなに辛いことか想像できないでしょう。
会社の目的は通報する邪魔者をいじめ、自己都合退職に追い込むこと、または休職に追い込み、解雇に持ち込むものと容易に推察できます。私が病休から復職する際も、主治医、産業医の就業環境配慮の進言を聞かず、嫌がらせを続けた行為は安全配慮義務違反と言えます。
大塚食品は公益通報保護法と安全配慮義務を守り、直ちに嫌がらせをやめるべきです。そして消費者への裏切り行為を改め、説明責任を果たすべきです。それらのことを明らかにして、会社に社会的責任を自覚してもらい、耳に痛いことを述べる社員こそ大切にする会社になってほしい、という思いこそ、私がこの訴訟を始めることにした理由なのです。
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