本記事はサステナブル・ブランド ジャパンの「サステナブルな製品を当たり前に――EUが施行した「新エコデザイン規則」が企業に与える影響とは」(2024年8月20日掲載)を、ITmedia ビジネスオンライン編集部で一部編集の上、転載したものです。SB.comオリジナル記事はこちらから。
欧州連合(EU)で7月、「持続可能な製品のためのエコデザイン規則」が施行された。EUで製造された製品に限らず、EU域内で流通するほぼ全ての製品に適用される。今後、EU域外のメーカーや輸入業者、卸売業者、小売店、販売店にも影響が及ぶことになり、世界各地の企業やブランドは同規則への対応を余儀なくされるだろう。
EUで7月18日に施行されたエコデザイン規則の英文名称は「Ecodesign for Sustainable Products Regulation」(以下、ESPR)。EU全域を対象としたこの新規則により、場所を問わず、サステナブルな製品がごく当たり前のものになるかもしれない。それこそまさに、この規則が目指していることだ。
欧州グリーンディール担当執行副委員長のマレシュ・シェフチョビチ氏は「EU市場において資源効率とエネルギー効率に優れた製品が当たり前となるよう、私たちは以前よりもハードルを高くしています」と話す。
EU全加盟国に国内法の立法を義務付けたESPRでは、ほぼ全ての製品を対象に一連のエコデザイン要件が設定されている(食品や医薬品などを除く)。その目的は、衣類から家具、電子機器、果てはタイヤに至る市場のあらゆる製品のデザイナーに対し、循環型経済に向けた取り組みの一環として、修理やリサイクル、再利用が容易な設計への変更を強制することだ。
政策立案者によると、1つの製品が環境に及ぼす影響の約80%は、そのデザインによって決まってしまうという。ESPRに含まれている基準には、製品の耐久性向上、エネルギー消費の削減、リサイクル材料含有率の向上、リマニュファクチャリング(再製造)やリサイクルの促進、製品の持続可能性に関する情報入手可能性の改善を重視したものがある。
欧州の政策立案者は、長年にわたってこの難題に取り組んできた。そして、EUが2020年に打ち立てた循環型経済行動計画の根幹を成すのがESPRである。ただし、正式に施行されたとはいえ、適用されるのは当分先の話だ。欧州委員会が最初の作業計画を採択するのは2025年3月の予定で、エコデザイン要件が展開される最初の製品群についての概要がそこで明らかにされる。
それらの要件が採択されるのは2026年の終わり頃で、適用は2027年以降だ。メーカーはそれまでに、耐久性やリサイクル性の向上など自社製品のデザインや使用原材料を変更することになるだろう。生産工程や製造法の変更も必要になるかもしれない。
最初の作業計画で打ち出されるとみられるのは「優先度の高い製品群」で、暫定リストに含まれている繊維製品、家具、マットレス、タイヤ、洗剤、塗料、潤滑剤などが、初の対象製品となる予定だ。
ESPRは、EU製のみならずEU域内で流通する製品のほぼ全てに適用されるため、メーカー、輸入業者、卸売業者、小売店、販売業者を含む世界中の企業に影響を及ぼすだろう。製品の対象範囲が消費財にとどまらず、実に多種多様なことから、繊維業界や運輸業界なども無関係ではいられない。
ESPRでとりわけ目を引くのが、製品の持続可能性に関する情報提供の改善を定めた規定だ。原材料調達からリサイクルに至る製品のライフサイクル全体について、消費者により分かりやすく情報を提供するための仕組み「デジタル製品パスポート(DPP)」が新たに導入される。
正確な詳細はまだすり合わせが行われていないものの、QRコードが使われる見通しで、消費者はQRコードを通じて情報データベースを開き、環境要件を考慮した上で購入を決められるようになる。最低でも、ブランド広告が無自覚のグリーンウォッシュに該当していないかを確認できるだろう。
ブランド側は、DPP用データをサプライヤーから入手しなければならない。DPPでは、環境インパクトやリサイクル可能性、規制機関向けコンプライアンス文書などの情報が、これまでめったに見られなかった方法で提示されることになる。
ESPRに大きく関係するのは、ファッションやアパレルのブランドであろう。何しろ、スニーカーやTシャツなどを含む売れ残り製品の廃棄が禁止されるからだ。この措置は、年間およそ1億トンにも上る膨大な繊維製品の無駄を削減するために盛り込まれた。
エコデザイン規則では、破損品あるいは売れ残りとして処分された物品を「廃棄」と見なしている。しかし、再利用や修復、再製造のために廃棄された物品については、この定義は当てはまらない。つまり、企業はTシャツを粉砕して新しく衣類を製造することは可能でも、リサイクルをして繊維を回収するためだけに物品を廃棄することはできないわけだ。
EUが目指しているのは、過剰生産して残った在庫をただ粉砕するという企業慣行を止めさせることである。たとえ原材料をリサイクルに回す場合でも、その過程でさらなるエネルギー消費が必要となってしまうからだ。
「ESPRは多数の業界にとって、製品の扱い方をがらりと変えるゲームチェンジャーとなるでしょう」と話すのは、大手国際法律事務所フレッシュフィールズ ブルックハウス デリンガーのアドバイザー、サッシャ・アーノルド氏だ。例えば、繊維セクターはこの新規則の影響を大きく受けることになり、従来型のビジネスモデルや事業運営を見直す必要がある。
「基準が厳しくなったエコデザイン規則が直ちに適用されるわけではありません。ただし、デザインや製品サイクル、製品メーカーのことを考えれば、企業側はESPRの要件をすぐにでも十分に把握し、自社製品を準拠させる上で何が必要になるのか、検討を始めるべきです。そうしなければ、EU市場にアクセスできなくなる恐れがあります」
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