コストコでは、収益性の高さが高時給を可能にしていると考えられる。過去の記事『全てが安いわけではないのに、「コストコ」はなぜお客の心をつかむのか 商品以外の魅力に迫る』でも述べたように、1平方当たりの売上高は通常のスーパーが130万円弱であるのに対し、コストコは180万円でかなり高い。年間の1店舗売り上げは180億円以上とされ、コストコ1店舗の従業員数は300〜400人、少なく見積もって400人で割ると、従業員1人当たりの年間売上高は約4500万円だ。この数値も一般的なスーパーと比較して高い。効率的な経営ができている分、高時給が負担にならないのだろう。
イケアに関しては競合のニトリが好調なのと比較し、規模・利益の両面で苦戦している。そのため、イケアが高時給を維持しているのは業績よりも同一労働同一賃金の理念にあるといえるだろう。イケア・ジャパンの2023年8月期業績は売上高が944億円、営業利益が17億円であり、営業利益率は1.8%ほど。10%をゆうに超えるニトリホールディングスと比較し、かなり低い。
イケアは店舗拡大も滞っており、これ以上の時給アップは難しいのではないかとみられる。対するコストコは以前、時給1200円スタートだったが現在では前述の通り、1500円である。2030年までに60店舗(10月現在で35店舗)の目標を掲げて拡大路線を歩んでいることからも、イケアよりは財務的に余裕がありそうだ。さらなる時給アップが実施される可能性は十分にある。
昨今、長時間労働や成長の鈍化に関して、人手不足を言い訳とする企業幹部の発言をよく耳にする。しかしそれは「安い賃金で働く人が不足している」ということではないだろうか。高い給料を提示すれば人は集まるはずで、人件費を捻出できないほど収益性が低ければ、その事業は撤退すべきである。起きているのは「人手不足」ではなく「経営努力不足」ではないか。
山口伸
経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。 X:@shin_yamaguchi_
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