リテール大革命

イオン、パート「7%賃上げ」の衝撃! 「レジ打ち」が減った職場で起きる大変革とは大手が続々時給UP(1/4 ページ)

» 2023年02月27日 05時00分 公開
[岩崎剛幸ITmedia]

 岸田文雄首相が1月の経済3団体の新年祝賀会で「インフレ率を超える賃上げをお願いしたい」と要請したことを受け、日本の賃上げ機運が一気に高まりました。2022年12月の消費者物価上昇率が41年ぶりに4%台に達したことも後押しとなったようです。統一地方選をにらみながら政府による企業への賃上げ圧力が高まり、各企業での賃上げ議論も白熱しています。

 このような中、イオングループが自社のパート40万人の時給を7%引き上げると発表しました。今年の春闘では5%が一つのラインといわれている中で、7%という数値は大きなインパクトがありました。イオンの賃上げは、国内企業各社にどのような影響を与えるのでしょうか。消費トレンドを追いかけ、小売・サービス業のコンサルティングを30年以上にわたり続けているムガマエ株式会社代表の岩崎剛幸が分析していきます。

イオングループでパート時給を値上げ

「7%」の衝撃

 22年3月以降、時給引き上げの対象となるのは、国内のスーパーやドラッグストア、専門店チェーンなどの連結子会社147社で働く約40万人のパート従業員(同社ではコミュニティ社員と呼ぶ)です。同社の国内従業員の8割に当たる人数です。

 総務省統計局の労働力調査(2022年)によると、日本全体の就業者数は6723万人で、役員を除く雇用者数は5699万人です。このうち卸・小売業に従事する就業者数は1044万人と全就業者数の16%を占め、役員を除く雇用者数は973万人です。製造業(就業者1044万人、雇用者1006万人)に次いで雇用者数の多い業界です。

 日本の非正規雇用者数は2101万人。非正規雇用者割合は36.9%ですが、卸・小売業に限定すると約47%と非正規雇用者割合が半分近くになります。卸・小売業で働く非正規雇用者数は推定457万人。イオンのパート従業員40万人のうち、GMSなどの小売り業態で働いている人が7割程度の28万人と想定すると、日本の卸・小売業の非正規雇用者のうちおよそ6%がイオンのパート従業員となります。その構成比率は大変大きいといえます。

 イオングループの店舗は全国各地にあります。普段、買い物でも利用している身近な店舗だから安心して働けます。また、小売業はレジ、接客、品出し、バックヤード業務など業務内容も幅広いので人手が必要です。昔から小売業は労働集約型産業といわれてきました。それだけ大量の人材を雇用してきたのが小売業であり、その代表がイオングループです。イオンは雇用をつくるという点において、日本に大きく貢献している会社ともいえるのです。

 従業員数の多さという点でも、イオンのパート時給7%引き上げには非常に大きなインパクトがあります。しかもGMS(イオンリテール)やSM(マックスバリュやミニストップなど)だけでなく、ドラッグストアや金融、デベロッパー、専門店各社で働く全てのパート従業員が対象です。イオングループは関連子会社の事業領域が幅広いこともあり、これからさまざまな業界に影響を与えるのではないでしょうか。

 伊藤忠総研の中浜萌副主任研究員は「パート従業員の時給が1%上がれば、国内消費は960億円上がる」と試算しています(出所:日経MJ23年2月18日付「イオン時給7%上げ、吉田社長「売り場で稼ぐ人材作る」)。

 イオンのように国内の他の会社でもパート全体の時給を7%上げれば、国内消費は6700億円程度増えることになり、22年度国内民間消費支出(約295兆円)の0.2%を押し上げる効果があります。全ての企業のパート時給が7%上がることはないでしょうが、平均5%賃上げされれば4800億円の押し上げ効果が期待できます。その意味で今回のイオンのパート賃上げは日本の国内消費全体を活気づける一要因になりうるという点で注目すべき数字なのです。

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