実は、イオンに先立ってパート・アルバイトの時給を2割引き上げたのはユニクロを展開するファーストリテイリングでした。その後、イオンやオリエンタルランド(7%増)、任天堂(約10%増)など、大手企業が続々とパートやアルバイトの時給引き上げを発表しました。最初の頃は「ユニクロだから時給を引き上げられるのだろう」程度に見ていた企業も、イオンやオリエンタルランドといったように身近で影響力のある企業が続々と賃上げを発表したことで、いよいよ本格的に賃上げに踏み切る必要に迫られています。
今回のパート時給の引き上げによって、イオングループの人件費は年間300億円ほど増えると見られています。金額だけ見るとかなり大きな人件費負担となります。人件費を上げるにあたっては、それだけの付加価値を生み出している企業かどうかが問われます。では、イオングループの連結損益はどうなっているのでしょうか。
イオングループの売り上げ(営業収益)は8兆7000億円あります(21年度)。営業利益は1743億円ありますから、300億円の人件費増も十分に吸収できそうです。では、同社の人件費関連の実数値を見てみましょう。
イオンの営業収益については、21年度が前年比で1.3%増、売上総利益は3.4%増です。一方、人件費は20年度の1兆2335億円から、21年度は1兆2566億円と1.9%の伸びに止まっています。結果的に営業利益は15.8%増となっていますが、今後は営業収益を上げていくことなしに利益の上積みは難しいと思います。イオンとしては「25年度に営業収益11兆円」という中期経営計画がありますから、従業員に報いることで、再度全社に奮起を促し、業績を伸ばしたいという思いが強いのではないでしょうか。その点では収益の伸びに合わせた人件費増は必要な施策です。
この数字をさらに労働分配率の視点で見てみます。これは企業の生み出す付加価値に対する賃金支払い総額の比率です。イオンの労働分配率は18年度から見ると上がってはいます。しかし、21年度には40.4%と、20年度の41.0%から0.6ポイント下がっています。企業側の立場に立てば、40.4%の労働分配率は財務数値基準としては適正かもしれませんが、従業員への投資という点では物足りません。特に今のような時期には分配率を引き上げていかなければ、優秀な人材の確保という点からも企業価値が低いと見なされかねません。この点で、人件費の多くを占めるパート時給の引き上げは同社にとって必須の施策といえるのです。
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