ただ、文化だけで多様な働き方を維持し続けるのは難しい。文化を持続可能とするための工夫や仕組みも重要となってくる。
日本事務器では「一日のスケジュールを事前にカレンダーに登録し、業務終了時間を明確にしている」という。これにより、チームメンバーはマネジャーの予定を把握し、効率的にコミュニケーションを取れる。また、社内SNSを活用した情報共有も積極的に行い、勤務時間による情報格差の是正を行っているそうだ。
また、エプソン販売では持続可能な仕組みづくりと同様に、社内への浸透を図っている“心構え”があるという。
「自分にできることを精いっぱいやった上で、『できないことはできない』と割り切ることも大切だと考えています。問題が起こる前に対処できるようチームの業務を全て把握し、先手を打てるように心掛けています」(エプソン販売の時短マネジャー)
では、時短勤務の社員がマネジャーを務めることで、チームにはどんな効果が表れるのだろうか。WHIの東城氏は「私がマネジメントしているチームは、組織全体と比較して残業時間が少ないんです。それでいて、目標は毎期達成しています」と答えた。補足すると、東城氏のチームには、時短社員がいない他チームと同程度の高い目標が課されているという。
この現象は、WHIだけではなく他の2社でも起こっている。時間の制約があるマネジャーの存在が、チーム全体の「時短」意識を高め、効率的な働き方を促進しているようだ。ルーティン化できる事務作業や管理業務はITツールを活用して自動化を進めるなど、限られた時間を有効活用するための工夫が各社に見られた。
時短勤務社員が働きやすい環境づくりは、多くの企業が頭を悩ませる課題だ。「時短社員をマネジャーに」となると、さらにハードルが高いと感じている企業が多いだろう。しかし今回の3社の事例から、適切な支援と工夫があれば十分に実現可能であること、また時短マネジャーの存在が、生産性向上につながる可能性が見えてきた。
働き方改革として、育児中の社員の支援が取り上げられることは多い。しかし、生き方や働き方に関する考えは多様化しており、育児中でも時短勤務を望まない人もいれば、そもそも出産・育児をしない選択をする人も増えてきている。
企業が働き方改革を推進すればするほど、時短勤務社員とそうでない社員との間に、“ひずみ”が生まれてしまうことも少なくない。それを示すように、4月には「育児中社員の仕事巻き取るの限界すぎて会社を辞めた」というタイトルの匿名のブログが話題となり、多くの賛同の声が集まっていた。
今回の3社は、どう対応しているだろうか。WHIの笠間氏は「働き方への不満や疑問はもちろんあがってくるが、時短社員に限定した声は現状ない」と話す。その理由を、以下のように分析する。
「当社では、時短勤務に限らず多様な働き方をサポートしています。フルタイムで働く社員にも、フレックスタイム制やテレワークなど、柔軟な働き方の選択肢を提供しています。つまり、全ての社員が自分に合った働き方を選べる環境を整えているのです」
同社のこの方針は、時短勤務者とフルタイム勤務者の間の公平性を保つ上で、重要な役割を果たしているのかもしれない。全ての社員が柔軟な働き方を選択できるならば、特定の働き方に対する不公平感は生じづらいだろう。日本事務器とエプソン販売も、同様の考え方のもと、人事・労務制度を設計しているという。
育児中や時短勤務中の社員のサポートだけでなく、多種多様な人生観・キャリア観を認めることが、成功の鍵となっているようだ。
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