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優秀なのに「部下を育てられない」管理職 原因はある“思い込み”にある(1/2 ページ)

» 2023年09月28日 07時00分 公開
[児玉結ITmedia]

 企業の管理職を取り巻く状況は、年々過酷になっています。変化の激しい環境下で、多様なメンバーの力を引き出しながら成果を上げることは容易ではありません。高い目標を達成するために、真面目な管理職ほどメンバーの分まで仕事を負担して頑張りすぎ、疲弊しています。

 筆者が開発を担当する管理職向け研修では「ご自身がやりたいことは何ですか?」「その仕事はやりたいと思えますか?」と講師から質問しています。これに対し「仕事なのだから、やりたいかどうかは関係ない」という答えが返ってくることが少なくありません。「仕事はやるべきことなのでやって当然」という反応です。

 このような真面目な管理職ほど、前述のように「自分がメンバーの仕事を巻き取ってでもやり遂げなければ」と頑張ってしまいます。一方のメンバーは、最後は上司が何とかしてくれると安心しきっているのか、なかなか成長スピードが上がりません。

 愚痴もこぼさず仕事に向かう上司を見ていると、すごいなとは思うものの「あんなに忙しそうな管理職になるのは嫌だな」と思うのが正直なところ。結果として、管理職が頑張れば頑張るほどメンバーが育たず、仕事は増え続けるという負のループに陥ってしまいます。

 ではどうすれば、このような負のループを抜け出せるのでしょうか? 本稿では、このような真面目な管理職の持つ「メンタル・モデル」に着目し、従来の思考や行動のパターンを変えていくヒントをお伝えします。

部下が育たない……どうすれば?

 「仕事だからやるのは当たり前」「上司だからメンバーの仕事を引き受けるのは当然」。どちらも一面ではその通りかもしれません。ただ、このような考え方だけに捉われて仕事をしていると、やるべき仕事は増え続け、やがて限界を迎えます。

 仕事とはこういうものだ、管理職とはこういうものだ、という物事に対する捉え方を「メンタル・モデル」と呼びます。例えば、下記は仕事にまつわるさまざまな捉え方の例です。

photo 仕事にまつわるさまざまな捉え方の(リクルートマネジメントソリューションズ作成)

 これらは、物事の捉え方の例であり、どれが正しい/間違っているというものではありません。メンタル・モデルとは、私たちにとっての世界の「見え方」を決めている枠組み、いわば「メガネ」のようなものです。どのようなメガネをかけて見るかで、世界がどう見えるかが異なります。見え方が違えば、その世界に対しどのように行動するかも当然変わってきます。

 例えば「仕事でミスをすることは絶対に許されない」と思っている人と、「仕事でのミスや失敗から、貴重な学びを得られる」と思っている人とでは、同じ管理職の仕事をしていても、状況の捉え方や行動が異なります。前者は、メンバーがミスをしそうになると自分が代わってやってあげるなどしてミスを回避するでしょうし、後者は多少のミスなら自分が責任をとり、その失敗からメンバーに多くを学ばせようとするでしょう。

メンバーのフォローに追われる営業課長 真面目がゆえの問題点

 ここでは、ある架空の管理職の例からメンタル・モデルについて考えてみましょう。

 Aさんは40代の営業課長です。若い頃から真面目で目標達成への意欲が高く、高い業績を上げていました。課長になってからも、自分自身が率先して新規顧客を開拓するなど、目標達成に向けてメンバーをリードしてきました。

 ただ最近は、顧客の要望もレベルが上がり、一筋縄ではいかなくなってきています。メンバーは顧客との難しい交渉やトラブルに不慣れで、何かあるたびにAさんが同行してサポートしなければなりません。メンバーもAさんを頼りにしており、1on1でも毎回、仕事の進め方についてこと細かに相談します。

 Aさん自身がメンバーと同じくらいの年齢の時にはもっと自発的に動いていたことを考えると、メンバーにも目標達成に向けて自走してほしいのですが、思うようにいきません。メンバーに自分で考えるように促してもなかなか考えないため、顧客を待たせるわけにもいかず、結局Aさんが解決法を教えたり、仕事を巻き取ったりするのがいつものパターンになっています。

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