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優秀なのに「部下を育てられない」管理職 原因はある“思い込み”にある(2/2 ページ)

» 2023年09月28日 07時00分 公開
[児玉結ITmedia]
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“真面目で責任感の強い”管理職が見ている世界

 さて、Aさんはどのようなメガネで世界を見ているのでしょうか。

 まず、若い頃から決められた目標に対してきっちり成果を返してきたAさんは、管理職としても組織目標の達成を重視しています。特に、管理職自身が手本を見せる、背中を見せることでメンバーをリードし、メンバーの足りない部分を補って目標を達成するのが管理職の役目だと考えているようです。

 またAさんは、メンバーたちに自走してほしいと思う一方で、メンバーに考えさせるのは時間がかかり、非効率的だと感じています。メンバーの成長のためには、自力で問題に対処させたほうが良いと分かってはいても「目の前の顧客を待たせることはできない」「効率的に対処したい」という気持ちが先に立ち、結局メンバーに任せられません。

 これらは、真面目で責任感の強い管理職によく見られるメンタル・モデルです。「管理職が組織の中で最も優れたプレイヤーでなければならない」「常に効率を追求しなければならない」といった見方が、思考や行動の前提になっています。

 このようなメンタル・モデルの背景には、その人の過去の成功体験やこれまでの人生を生き抜いてきた生存戦略があります。バブル崩壊後に入社した今の40代管理職層は、右肩下がりの経済の中でも必死に努力し、プレイヤーとしての業績を上げてきた人たちです。また、どの企業も合理化やコスト削減に注力する中、組織では常に効率的であることが求められてきました。このような背景もあり、真面目な管理職ほど、無意識のうちに「優秀なプレイヤーでなければならない」「常に効率的でなければならない」という前提を強く持って仕事をしているのです。

 このような無意識の前提に縛られている限り、メンバーの主体性を引き出したい、メンバーが自走できるようになってほしいと思っていても、結局は自分が仕事を巻き取ってしまうループからはなかなか抜け出せないのです。

管理職のメンタル・モデルはメンバーや組織にも影響する

photo 画像はイメージです(提供:ゲッティイメージズ)

 では、このような管理職をメンバーはどう見ているのでしょうか。Aさんが担当するチームのメンバーを例に考えてみましょう。

 Aさんの組織では、メンバーが分からないことには全てAさんが答えてくれるので、Aさんは皆からとても信頼され、頼られています。

 メンバーは「分からないことはAさんに聞けば良い」と考えるようになり、難しい交渉やトラブルが起きそうになると常にAさんをあてにします。Aさんの言う通りにやっていればうまくいくと考えるため、自分なりに工夫したり試行錯誤したりすることも少なくなります。

 こうしてAさんの職場は、Aさんだけが頑張り続け、メンバーはAさんに従うだけになっていきます。Aさんが一人奮闘しているのを見ているとメンバーも申し訳ない気持ちになりますが、自分たちが何とかしようという動きはなかなか出てきません。なぜなら、最も優秀なプレイヤーであるAさんが対処するのが、最も“効率が良い”と思えるからです。このように、メンバーたちも「管理職はメンバーを助けるものだ」「自分で考えるよりも効率が優先だ」というメンタル・モデルを持つようになり、Aさんはますますメンバーに頼られ、仕事を肩代わりせざるを得なくなります。

メンタル・モデルを自覚する対話

 このような状態を抜け出すには、何よりもまず自分自身のメンタル・モデルを自覚することが必要です。

 どのようなメガネをかけて世界を見ているのか、それが自分の行動にどう影響しているのかを自覚することで、別の選択肢が視野に入り、これまでメンタル・モデルによって自動的に選択されていた行動にブレーキがかかるようになります。

 しかしメンタル・モデルは、普段は無意識の領域にあるものなので、一人では自覚することが難しいものでもあります。ここで 有効なのは、他者と対話をすることです。

 特別な準備は必要ありません。仕事中でもプライベートでも、自分と相手との意見が異なる場面で、「なぜそう思うのか」を掘り下げて聞いてみることが有効です。他者との意見の違いは、世界の見え方の違いであり、メンタル・モデルの違いにつながっているからです。

 ポイントは「なぜそう思うのか」を繰り返し聞くことで、相手が何を大事にしているのか、何にこだわっているのかという価値観まで掘り下げることです。

 相手のことを聞き終えたら、自分自身でも「ではなぜ自分は違う意見なのか」「相手とどこがどう違うのか」を相手に伝えます。そうすることで、お互いの見方や捉え方の違いが明らかになります。このような対話を意識的に繰り返すことで、自分自身のメンタル・モデルを自覚できるようになります。

 Aさんの例では、「優れたプレイヤーでなければならない」「常に効率的でなければならない」という無意識の前提にまず気付くことが、「本当にそうだろうか?」「そう考えない人もいるのではないか?」と自分の在り方を考え直すきっかけになります。

 常に優秀でいなければならないプレッシャーから解放され、効率を追求する場面/しない場面をうまく使い分けられるようになると、Aさんは今よりも幾分楽な気持ちでマネジメントができるようになるはずです。

 また、Aさんとタイプは違っても、いつも同じような不本意なパターンに陥っている、マネジメントが大変すぎて何とか現状を打開したいという方は、ぜひ対話を通したメンタル・モデルの発見にトライしてみてください。

著者情報:児玉結

リクルートマネジメントソリューションズ HRDサービス開発部主任研究員。広告業界などを経て2008年に入社し、以来一貫して企業向け研修など人材育成サービスの企画に従事。新入社員〜管理職まで、幅広い領域の企業研修の企画を担当。マネジメントやリーダーシップ、学習や成長といったテーマでの調査・研究も行っている。

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