自民党総裁選に際し、立候補した政治家の一部が「金銭解雇も含めた解雇規制の緩和検討」に意欲を示したことが話題となった。
「解雇を受け入れる代わりに、労働者が金銭を受け取る『金銭解決制度』の導入を検討」という内容で、解雇にまつわる明確なルールが定められていない現状から脱却でき、労使双方にとってメリットを実感できる仕組みともなり得る話だ。
筆者も「解雇の金銭解決制度」については大いに賛成だ。今回は「日本におけるクビの種類」「簡単にクビにできないと思われている、日本の解雇規制に関する誤解と実態」「解雇を金銭解決できるメリット」の3点について解説していく。
わが国において解雇(クビ)は、その原因別に大きく「整理解雇」「懲戒解雇」「普通解雇」の3種類が存在する。
これらはいずれも会社側が一方的に契約解除を通告するものだが、似ているようで異なるものとして「退職勧奨」という手続が存在する。
映画やマンガでは、ヘマをした部下に対して上司や経営者が「お前はクビだ!」などと宣告する場面をよく見かける。しかし、これができるのはあくまでフィクションの世界や、日本とは法律が異なる海外の話。わが国ではそう簡単に、従業員のクビを切ることはできない。
労働者の雇用は手厚く守られている。実際「日本は海外に比べて解雇規制が厳しい」「従業員のクビを切るのは法律違反だからダメ」と認識されている方も少なくないだろう。
しかし、そういった一般的な認識とは裏腹に、実はわが国の解雇規制は世界的に見ると「弱い方」だ。OECD諸国で比較した場合、日本は解雇規制が弱い方から11番目。米国より厳しく、欧州諸国より弱い、という位置付けなのである。
実はわが国において解雇を直接的に制限する法律といえば、労働契約法第16条(解雇権濫用禁止)くらいしか存在しない。つまり「禁止」ではなく、あくまで「制限」なのだ。
労働契約法第16条
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
それどころか、民法では「期間の定めのない雇用契約はいつでも解約の申し入れをすることができる」(民法第627条)との規定があるし、労働基準法第20条でも「30日前に予告するか、解雇予告手当を払えば、従業員は解雇できる」と書いてある。つまり「解雇予告手当1カ月分を払えば自由にクビできる」とも読める。
法律の条文だけを見る限り、わが国において解雇が厳しく規制されているようには見えない。しかし、これは「あくまで法律上は」という建前上の話に過ぎない。実質的に、わが国には法律とは別にもう一つのルールが存在する。それが「判例」、すなわち「裁判で解雇が無効だと判断された事例」である。
これまで不当解雇にまつわる裁判が数多く行われ、個々のケースについて有効か無効かが判断されてきたという「歴史の積み重ね」がある。それらの判例が法理として現行の「整理解雇の4要件」となっている。
ということで実際は、過去の判例とこの4要件により、根拠ある合理的理由がなければ解雇は無効となってしまう。この「解雇が合法的に成立するための要件」認定は極めて厳しく、「実質的に解雇が有効になるケースはごく稀(まれ)である」というのが現状なのだ。
したがって「日本は解雇規制が厳しい」と言われているのは「解雇を規制する法律がガチガチに固められていて、解雇したら即ペナルティが課せられる」といった意味ではない。「解雇自体はできるが、もしそれが裁判になった場合、解雇無効と判断されるケースがきわめて多いため、実質的には解雇が困難」という表現がより実態を正確に表していると言えるだろう。
ベンチャー経営者の「寝食を忘れて仕事」発言 なぜ炎上を繰り返すのか
「転職エージェントの倒産」が急増 人手不足なのに“4年で4倍”に、なぜ?
タイミー社の躍進、背景に「短期派遣業の意外なルール」 ただの人材派遣とどう違う?
給与とメンタルをむしばむ「多重下請け構造」 なぜ法規制しきれないのか?
定年後の嘱託社員、最低賃金での雇用はアリなのか?Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング