「相談しない部下」が増加、何におびえているのか? 上司ができる、ただ一つのこと河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(3/3 ページ)

» 2024年10月25日 07時00分 公開
[河合薫ITmedia]
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評価不安が生む悪循環 「ダメなやつと評価されたくない……」 

 冒頭の調査で、上司とのコミュニケーションの課題に「指示・指導が分かりづらい」「相談や質問をしづらい」「相手との精神的な距離を感じる」という回答が挙げられていましたが、評価不安を抱える若者は「分からないこと」があっても、「分からない」と聞きません。

 「そんなことしたらダメなやつだと思われる」「こんなことも知らないの、とか言われそう」「聞いたら終わり。使えないやつってレッテル貼られてしまう」など、彼らの脳は「聞く=ダメなやつと評価される」という公式で埋め尽くされています。

 他者評価を過剰に気にする現代の若者だけに、“聞けない症候群”に陥ってしまうのでしょう。

 要するに、上司部下コミュニケーションは、コミュニケーションの問題であって、コミュニケーションだけの問題ではない。若者の「評価不安」を消さない限り、問題解決にはつながりません。

 では、上司はどうすればいいのでしょうか?

上司にできる、ただ一つのこと

 上司のすべきことは、信頼と共感を示すこと。これに尽きます。

 信頼とは「部下の可能性を心の底から信じる」こと。「その場をうまくやる=ハラスメントにならないやりとりに注力する」よりも、ただただ「あなたをちゃんと見てるよ、ちゃんと分かってるよ」という気持ちを声に出してほしいのです。

 評価不安は「自分の可能性を信じるスイッチ」をオンにすることでしか、解消されません。

 そのスイッチをオンにするきかっけを、上司には作ってほしいのです。

画像提供:ゲッティイメージズ

 「可能性にかける=才能が開花する」とは限らないかもしれません。上司の努力が無駄になるリスクは多分にあります。それでも、自分が「可能性」を信じない限り可能性のスイッチはオンにならない。「そのスイッチがあなたにはあるんだよ!」というメッセージを上司は部下にどうか送り続けてほしいのです。

 「おお、がんばってるな!」「君なら大丈夫だ!」「最後は私が責任を取るから、ドンとやってみなさい!」と言い続けてほしいのです。

 極論を言えば、そう言い続ける=部下の可能性にかけることくらいしか、上司にできることはありません。私はこれまで1000人以上のビジネスパーソンにインタビューしてきましたが、そこで痛感したのが「人に内在する不思議な力」です。

 人は信頼されるから相手を信頼し、期待されるから期待に応えようとする。そういった心の動きがあってこそ人は成長し、そのきっかけを与えてくれた「他者=上司」といい関係を作ろうと努力します。

 上司は「コミュニケーション」のせいにする前に、まずは部下の可能性を信じ、部下の可能性にかけてください。

河合薫氏のプロフィール:

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 東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。

 研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)、『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)、『定年後からの孤独入門』(SB新書)、『コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)『THE HOPE 50歳はどこへ消えた? 半径3メートルの幸福論』(プレジデント社)、『40歳で何者にもなれなかったぼくらはどう生きるか - 中年以降のキャリア論 -』(ワニブックスPLUS新書)がある。

2024年1月11日、新刊『働かないニッポン』発売。


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