以下は「上司・部下間のコミュニケーション」に関するアンケート調査に書かれていた“上司の悩み”の一部です。
仕事と私生活を完全に分ける意識が強く、私生活のことに触れるのがタブーのような空気感がある(50代男性)。
心を開いて何でも話してほしいと言ってはいるが、相手がこちらの役職などを考慮して忖度(そんたく)してしまうなど、本音で話すことが難しそうに思える(50代男性)。
調査はエン・ジャパンが20〜50代の会社員1800人超を対象に実施(プレスリリース)。上司と部下、それぞれにコミュニケーションに関して質問したところ、7割が「課題がある」としました。
具体的には上司は「相手との精神的な距離を感じる」「深い議論になりにくい」「相談や質問をしてくれない」の順に多かったのに対し、部下は「指示・指導が分かりづらい」「相談や質問をしづらい」「相手との精神的な距離を感じる」。順位の違いはあるにせよ、上司も部下も「コミュニケーションの壁」を感じていました。
私自身、何人もの上司たちから、冒頭のコメントと同様の悩みをたびたび聞いてきました。ある人は「ジェネレーションギャプ」という言葉を多用し、ある人は「Z世代」という世代論を用い、またある人は「パワハラ・セクハラ」を懸念し、伝えたくても伝えられないジレンマを抱えていました。
いつの時代も上司は部下を「最近の若者は〜」と嘆いてきましたし、とりわけゆとり世代が社会人になった2010年以降は「これだからゆとりは……」などと、「ゆとり=使えない」と頭を抱える人が増え、『ゆとりですがなにか』なんてドラマも放送され大いに話題になりました。
そもそもコミュニケーションは「言葉のキャッチボール」といわれるように、言葉の意味を決めるのは「受け手」です。コミュニケーションで悩むのはアクションを起こす側(=今回は上司)なのに、「アクションを起こされている側(=同部下)に決定権がある」というのがいかにも不条理で、コミュニケーションが永遠のテーマになり得るわけです。
それでも1990年代まではなんだかんだ言いながらも、豪速球だろうとストライクゾーンを外れていようとも、部下は上司が投げたボールをキャッチするしかありませんでした。時には猛ダッシュで、時には転びながら、食らいついて取りました。当時はパワハラは「上司の熱血指導」という美しい言葉に、セクハラは「人間関係の潤滑油」などという都合のいい言葉に、それぞれ置き換えられ部下は我慢するしかなかった。
むろん、パワハラ・セクハラ常習犯はごく一部で、ハラスメントやコンプライアンスなんて言葉がなくとも部下に敬意を払う上司はいたし、紳士的な振る舞いをする男性もたくさんいました。しかし、部下とのコミュニケーションに悩む上司は、圧倒的に今の方が多いのは間違いないでしょう。
これまでの世代は、上司に「右向け!」と指示されれば「右を向く」以外、許されていませんでした。しかし、昨今の部下たちは「右は向きたくありません=ノーと言う権利」を手にすることに成功しました。時代は完全に“部下オリエンテッド”にパラダイムシフトし、新型コロナウイルス禍で一気にデジタル化が進み、時代の主役の座をゲットしたのがZ世代といえるでしょう。
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