数年前に取材した企業の採用活動では、就活生を半年間で合計8回のグループディスカッションに参加させ、その中で採用したい人物を決める、という手法を取っていました。ディスカッションには、新人を最初に配属させる部署のメンバーも参加します。
テーマは、全て実際の業務=仕事に関することです。そして、8回の面接が全て終わった時点で「うちの会社で一緒に働いてほしい」と思う学生に絞り、その学生だけを役員面接に送り込むのです。
ここまで聞くと「長いだけで普通の採用方法と変わらないじゃん」と思うかもしれませんが、この手法は、学生にとっても会社側の社員にとっても、通常の選考方法と全く異なる影響を与えていました。
「入社する段階で、既に自分のことを知っていてくれて、しかも認めてくれた先輩や上司がいるというのは、本当に心強い」「仕事では分からないことだらけだと思うし、どんな仕事が自分にできるかどうか自信はないけど、あの先輩や上司たちの中であれば、踏ん張って良い仕事をしたい」──そう話してくれたのは、採用が決まった学生たちです。
相手を知るには、少なくともしばらく付き合う時間が必要です。それは、企業にとっても、学生にとっても同じです。定期的に顔を合わせ、会話を広げる。「学生時代何をしたか?」より、会社で「チームとして何をするか?」が重要で、その関わりのつなぎ目となるのが「仕事」なのです。
新入社員が会社組織に適応し、戦力となる過程は「組織社会化」(organizational socialization)と呼ばれ、入社前から始まり、最低でも3年、長い場合は10年近くかかることもあります。この適応の鍵を握るのが、入社前の「キャリアレディネス」(就職前準備)です。
この企業のように実際に配属先の社員とじっくり話し、チームの業務について会話を深める取り組みは、キャリアレディネスの強化に大きな影響を与えます。
社員たちとの8回ものグループディスカッションを通じて、学生は同僚や上司と良好な人間関係を築く力、組織の一員として自らに課せられた仕事を遂行する力、遭遇した問題を組織文化、組織風土、組織の規範に基づきながら解決していく力などを身につけていきます。
それは、「どんな人物か?」を見極めるより価値があるはずです。
さて、人事部や採用関係者のみなさん、あなたの評価は何で決まっていますか? 「仕事の成果」を求めるならば、「リアルな仕事」における未来の仲間を見つけるにはどうしたらいいのか? を、自分の頭で、そしてそれぞれの組織で考えてみてください。
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。
研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)、『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)、『定年後からの孤独入門』(SB新書)、『コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)『THE HOPE 50歳はどこへ消えた? 半径3メートルの幸福論』(プレジデント社)、『40歳で何者にもなれなかったぼくらはどう生きるか - 中年以降のキャリア論 -』(ワニブックスPLUS新書)がある。
2024年1月11日、新刊『働かないニッポン』発売。
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