株式会社リクルートマネジメントソリューションズ エグゼクティブコンサルタント
サービス業、税理士・社会保険労務士事務所(社会保険労務士)を経て2005年、リクルートマネジメントソリューションズに入社。コンサルタント兼ファシリテーターとして幅広い業種やテーマに対して変革支援を行い、プロジェクトで関わった企業数はのべ150社を超える。
人材不足の状況下で、多くの企業が採用に力を入れるのと並行して、リテンション(優秀人材の流出防止)にも注力するようになってきました。
ただ一方で、現代日本では転職が当たり前になりつつあり、人材の流動性が高まっています。そのような状況では、リテンションに限界があることも確かです。その流れで最近注目されているのが、一度離職した従業員と継続的な関わりを持ち、“出戻り”で採用する「アルムナイ採用」です。中長期的に考えると、アルムナイ採用もリテンション施策の一種と見ることができます。
本稿では、アルムナイ採用の入門編として、注目される背景やメリット、手法などをお伝えします。
「アルムナイ」(alumni)とは、alumnusの複数形で、学校の卒業生・同窓生を意味し、人事領域では企業の離職者・退職者という意味で使われる言葉です。
「アルムナイ採用」とは、一度離職した従業員をあらためて出戻りで採用する仕組みを指します。アルムナイ採用に欠かせないのが、自発的に離職した従業員と関わる「アルムナイネットワーク」です。
最近、アルムナイ採用が有効な人材獲得手法の一つとして捉えられるようになり、導入を検討する企業が増えています。それはなぜなのか。どのようなメリットがあるのか。どのようにすれば導入できるのか。詳しく解説していきます。
アルムナイ採用には、企業にとっていくつかの明確なメリットがあります。1つ目に、採用後のミスマッチが起こりにくく、採用・育成コストやオンボーディングのコストを格段に下げられることがあります。
企業は、採用するアルムナイ従業員の実力や人となりをすでにある程度分かっており、実力や人物タイプの点でミスマッチを防ぐことが比較的容易です。
また、アルムナイ従業員側も自社の事業内容・仕事内容や組織風土をよく理解しており、場合によっては仲間たちの人物特徴まで把握しています。通常のキャリア採用よりも早く馴染むことが期待できます。
結果として、入社者が組織適応して活躍するまでの「オンボーディング」のコストを低く抑えられるのです。
下記の図表1は、オンボーディングにおける3つの壁と6つの症状をまとめたものです。このうち、アルムナイ従業員は「会社文化・職場風土の壁」と「仕事の壁」を乗り越えやすいのです。これは採用・育成においてプラスに働きます。
2つ目にアルムナイ採用は、既存従業員へのポジティブなメッセージにもなります。なぜなら、「いったん退職した後に出戻るキャリアルート」が、キャリア上の新たな選択肢に加わるからです。
そのため、アルムナイ採用は従業員に好意的に受け入れられることが多く、エンゲージメント向上などにつながる可能性もあります。また、アルムナイ採用を盛んに行う企業は、従業員にとって退職後もつながり続けたい魅力的な企業になるでしょう。「インナーブランディング」としての効果も期待できるのです。
実際、リクルートの「企業の人材マネジメントに関する調査2023 アルムナイ(カムバック採用/退職者コミュニティ)編」では、アルムナイネットワークを通じて採用を行っている企業、あるいは構築に取り組んでいる企業は、そうでない企業に比べ「採用が好調」「従業員エンゲージメントが高い」などのポジティブな傾向が見られました。この調査結果は、今紹介した2つのメリットを裏付けています。
3つ目に、そもそも日本社会は少子高齢化がどんどん進み、採用が困難になってきています。このような採用環境下では、企業は人材確保のために多彩な採用ルートを用意しておくことが欠かせません。今後、アルムナイ採用は、重要な採用ルートの1つとして、ますます注目されるに違いありません。
現代日本では、転職が当たり前になりつつあり、人材の流動性が高まっています。図表2の調査では、転職経験が1回以上ある人が半数を超えていました。3回以上の人も20.5%と約2割を占めており、転職が珍しくなくなったことが分かります。
人材流動性の高い社会では、アルムナイ採用に一定の合理性があります。どの企業でも一定割合の人材が離職する時代になったのですから、一度離職した優秀人材をあらためて迎え入れることも考えた方が、会社にとってプラスなのは明らかです。
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