なぜ星野リゾートは「マルチタスク」に取り組むのか? 独自の働き方改革が生んだ意外な効果長浜淳之介のトレンドアンテナ(4/5 ページ)

» 2024年12月30日 06時15分 公開
[長浜淳之介ITmedia]

マルチタスクの効果は?

 実質的なマルチタスクの効果として、星野リゾートの各施設で提供されている多くのサービスが、トップダウンではなく、サービススタッフによって考案されていることが挙げられる。

 星野リゾートでは、社員の提案により、大半の新しいサービスが始まっている。

 サービススタッフは、施設のある地域に暮らしているので、地域の人でしか分からないようなディープな魅力を発見して、それを新たな観光サービスに反映させる取り組みが日々行われている。

 典型的な例として挙げられるのは、青森県十和田市の「奥入瀬渓流ホテル」で提供されている「苔」にまつわるサービスだ。中でも「苔さんぽ」は、ルーペやスマートフォンのレンズで奥入瀬川流域の苔を観察して歩く、人気のアクティビティだ。2014年から行っている。

苔さんぽは、奥入瀬渓流ホテルで屈指の人気アクティビティ

 同ホテルの渓流コンシェルジュである丹羽裕之氏は、奥入瀬渓流の景観が、約300種と豊富な種類が生育する苔がもたらしていることに気付いた。実は、2013年には日本蘚苔類学会によって「日本の貴重なコケの森」の1つに奥入瀬渓流が選ばれ、2014年には日本蘚苔類学会43回大会が、青森県で初めて奥入瀬渓流ホテルで開催されている。

 最初は、渓流を目当てに観光に来る人に苔さんぽを推奨しても、参加者はごくわずか。星野佳路代表すら、よく理解できなかったという。しかし、丹羽氏は、ルーペを通して見る苔のバラエティに富んだ形状の面白さ、苔から見た生態系の変容のダイナミズムを、自ら深く研究して説き続けた。その結果、苔さんぽは人気アクティビティに成長した。

星野リゾート 奥入瀬渓流ホテルの苔の壁、苔アートウォール

 今では、奥入瀬渓流ホテルに「苔スイートルーム」という、本物の苔を使い、苔に包まれているかのような客室まである。館内パブリックエリアには、幅8.5メートルの「苔アートウォール」を設置。苔玉そっくりな外見の「苔玉アイス」も、ラウンジで販売している。

 苔観光は顧客の期待を超える、奥入瀬渓流ホテルのメインコンテンツとして、スポットライトを浴びるまでに成長した。

星野リゾート 奥入瀬渓流ホテルの苔に包まれた、苔スイートルーム

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