なぜ星野リゾートは「マルチタスク」に取り組むのか? 独自の働き方改革が生んだ意外な効果長浜淳之介のトレンドアンテナ(5/5 ページ)

» 2024年12月30日 06時15分 公開
[長浜淳之介ITmedia]
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意思決定の主体は各施設なので「本社」がない

 このようなフラットな組織の働き方と表裏一体のものとして、星野リゾートには「本社」という概念がない。

 星野リゾートは、長野県の軽井沢町が創業の地であり、本拠地でもある。その意味での本社は存在する。また、運営する施設が増えるに従って、東京にも拠点を設ける必要性が高まり、銀座にオフィスを構えている。そこでは、各施設で行うよりも、一拠点でまとめて行った方が効率的な情報システム、財務管理、一部の採用活動などの業務を行っている。

 各施設の総支配人を中心とするサービスチームは、自らの施設の収益性、顧客満足度向上に責任を負っている。

 「本社」という言葉から連想するのは、意思決定の主体がそこにあり、そこで決められたことを、各施設が履行する組織体制だ。

 ところが、星野リゾートでは、意思決定の主体が各施設にあって、サービスチームが主体性を持って自律的に運営に携わっているのだ。その意味で「本社」が存在していない。

大学1年生に内定を出すのは「青田買い」か?

 星野リゾートの働き方改革で、直近で話題になったのは、2024年10月に始まった、学年を問わず選考に参加できる、大学の1年生からでも内定を出す取り組みだ。「青田買いではないのか」といった批判も一部にあった。

学年問わず選考に参加できる通年採用を開始

 しかし、真の目的は、1年生から採用の内定を出すことではなく、学生がどのタイミングで進路を決めるのか、主体的に選択できる自由を提供しているという。

 最近は就職活動を始める時期がどんどん早まり、大学2年の夏から動き始める人も増えている。それなら1年生からでも、ニーズはあるはずだ。いつでも、学生が就職したいとの考えが固まった時点で、星野リゾートとしては会う準備がある。

2024年度秋の入社式、契りの会。10月5日磐梯山温泉ホテルで開催した。101名の新入社員が参加。

 新たな採用方式に対して、想定した以上の反響があったが、既にユニクロのファーストリテイリングなどでは始まっているので、今後一般化していくのかもしれない。

 鈴木氏自身も、星野リゾートに入社して、沖縄県西表島の「西表島ホテル」、福島県磐梯町の「磐梯山温泉ホテル」など、これまで訪れたことがなかった場所の宿泊施設で働いた。その土地の特徴的な植生、食文化などを勉強し、顧客に感動をいかに伝えるか、勉強の日々だったという。

 星野リゾートが目指す働き方改革は、必要な人員を必要な場所にという、トヨタ式のかんばん方式、ジャストインタイムの考えに近い側面がある。それに加えて、各施設のサービスチームに所属する個々人が、ルーティーンワークを超えて、全体的視野から新しいサービスを生み出す、モチベーションを高める場となっていることに独自性がある。

磐梯山温泉ホテル
磐梯山温泉ホテルに隣接した、国内最大級のスキー場、星野リゾート ネコママウンテン
西表島ホテル。手付かずの自然に包まれている
西表島ホテル、マングローブ観察のフィールドワーク
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