近年、令和シニアの間でスマートフォンをはじめとしたデジタルデバイスの活用率が高まっています。
仕事や趣味に対して意欲的な従来のアクティブシニアの定義にみられたように、健康意識が高い一方で、ライフスタイルや趣味し好など、これまでとは異なる傾向の事例が挙がってくるようになりました。
前回の記事では、敬老の日の企業のプロモーション施策を通じてシニア層を取り巻く新たな動きについて探ってきました。今回は、令和シニア研究所が発表した「令和シニア白書」の中身を一部紹介しながら、デジタル活用を通したイマドキのシニアの実態を探っていきます。
これまでの連載で、イマドキのシニア層はデジタルデバイスの普及の影響もあり、年代間での好みや価値観による違いが小さくなるライフスタイルの「消齢化」(※)現象が進んでいること、自分に対する消費行動を惜しまないZ世代と似通ったライフスタイルになってきている可能性があるということを、さまざまな角度から捉えてきました。
(※)「消齢化」「消齢化社会」は株式会社博報堂の登録商標です
その実態を確かめるため、令和シニア研究所では20〜74歳までの男女1260人にアンケート調査を実施。その結果として、デジタルメディアの活用状況については、60代の7割以上が検索サイトを利用し、9割以上がYouTubeやLINEを含むいずれかのSNSを利用していることが分かりました。
一度スマートフォンを手にすれば、シニア層もデジタル環境を積極的に利用するようになることが見て取れます。20〜30代の若年層と同水準とはいかないまでも、日々の生活でデジタルメディアとの接触が当たり前となりつつあるといえます。
総務省の報告書でのメディア別利用率においても高い数値が出ていました。特に60代はLINEが86.3%、YouTubeが66.3%と、シニア向けのメディアとしても非常に有効と考えられます。
前述の通り、シニアも20代と同様にYouTubeやLINEなどのSNSを活用するようになりましたが、その利用目的については異なる部分があります。20代は、「暇つぶし」(36.9%)や「推し活」(35.7%)など娯楽目的でYouTubeを利用することが多いのに対し、シニア層は「情報検索」(51.6%)や「ニュースの閲覧」(20.8%)といった情報収集を目的とした利用が多いことが分かりました。
実際に、Yahoo!検索の政治・動画カテゴリにおける60代の2024年10月のトレンド上位には「衆議院選挙」や「ワールドシリーズ」と関連したキーワードが挙がっており、記事に加えて詳細を深掘りしたいというニーズがうかがえます(DS.INSIGHTを活用し、令和シニア研究所が調査)。
この傾向はYouTubeやSNSの黎明期の主な利用目的とも共通しており、現在のシニア層にとってSNSの利用はまさに今が黎明期に当たるとも捉えられます。
シニアのSNS視聴時間がテレビとほぼ同等の時間であるといったデータもあり、これは、かつてテレビや新聞などのマスメディアで情報を収集していた従来の活動を、SNSが代替してきている可能性を示唆しています。
生活者のデジタルデバイスを活用した行動の歴史を振り返ると、まさに携帯電話からスマートフォンへ移行した時期と重なります。2011年にグーグルが提唱した、消費者行動の概念「ZMOT」(Zero Moment of Truth)は「顧客は店舗に足を運ぶ前に、インターネットで購入する商品を探し、すでに決めている」というWebマーケティングの理論です。
シニアの間で「SNSで検索」の力が強まっていくと考えると、過去に実施した、情報検索が目的の全年代・若年層向けSNSプロモーションが、今のシニア層に対して効果的な可能性もあるのではないでしょうか。
例えば、ルームツアーや休日ルーティーンなどのシニアYouTubeクリエイターが暮らしを発信するコンテンツの中で商品やサービスを紹介したり、「子ども食堂」など社会貢献度の高い地域コミュニティと連携したりすることで、エンゲージメントを高める施策などが挙げられます。「情報収集を目的とした場合の観点」で仮説を立て、企画を検討することがポイントになるのではないかと考えます。
シニアのライフスタイル面においても、令和シニアは「デジタル利用」の傾向が強そうです。
年代別に「新しく始めたこと」を調査したところ、 60代以降は「趣味ごと」にお金や時間を費やしていると回答した割合が95%以上と他の年代よりも高くなりました(※)。
(※)本調査はインターネットを利用したアンケート形式で実施しており、インターネットやSNSの利用に関する指標がやや高めに出る可能性があります。ただし、回答結果には、総務省の統計データに基づき適切な補正を行っています。
そして、デジタル時代である現代らしい多様な趣味し好も確認できました。自由回答を分析したところ、スマートフォンやVRなどデジタル機器の活用をはじめ、SNSやオンライン会などオンラインコミュニティへの参加や、従来の学習カテゴリ中でもオンライン学習といったWebサービスが幅広く活用されていることが分かったのです。
工作・創作活動においても3Dソフトウェアや3Dプリンターを利用するなど、手段としてデジタル機器の活用を挙げる人もいました。好奇心を満たす際、デジタルでの解消手段がある場合には積極的に活用するといった傾向が強くみられます。
また、定年後に所属するコミュニティについても「自治会」「地域のNPO」など居住区でのコミュニティに加え、「ゲームのクランメンバー」「生成AIの活用」などの回答も。シニア層の定年後の活動として想起されやすいコミュニティだけではなく、それぞれの興味・関心や好きなことを選び、多様な自己実現を果たしている実態がうかがえます。
では、シニア層がこのようにデジタルを活用して多様な自己実現を遂げている背景にはどのようなインサイトが影響しているのでしょうか。
年代別のインサイト調査によれば「病気にかからず、健康でいたい」「自らの行動を自分で決めていきたい」といった健康や自立に対する意識は10代以上に高い割合でした。一方で、「いろいろな経験をさらに積みたい」といった好奇心のスコアが落ち込むことはなく、10代並みに高く推移していました。これらの結果から、自身のこれまでの経験と知への信頼を基に、いつまでも活動的で若々しくありたいという願いがあるようにも読み取れます。
また、「周囲の人を助けたい、面倒を見たい」「自分ひとりの幸せよりもみんなの幸せを考えたい」と回答した割合は、全世代で見るとZ世代などの若年層と60代が高い結果となりました。
定年や再雇用によって自分と近しい人間関係や環境が変わったり可処分時間が増えたりすることで、生活の中で余裕が生まれ、今までの経験を社会に還元したいという意欲が湧き、改めて社会とのつながりに対する意識が高まっていることが読み取れます。
さらに、購買行動も「人や社会、環境に配慮した商品を買いたい」割合は60代を境に高まっています。この結果から、購買行動の観点においても、企業やブランドを応援することで社会とつながりを持つという意識がみられます。
令和シニアのプロモーション戦略として、サービスの利用や購買を通じて社会や人の役に立てることをキーメッセージとして打ち出すなど、シニアのブランド意識に寄り添ったマーケティング施策を行うことがポイントになっていきそうです。
シニア層のインサイトをうまく捉えた事例として、メルカリでは2024年6月よりヤクルト山陽および広島県安芸高田市・三次市と連携して、シニア層を含む地域住民の不要品をヤクルトセンターや市が回収し「メルカリShops」で販売しています(参照:メルカリ、ヤクルト山陽および広島県安芸高田市・三次市と連携して”まだ使える”不要品を回収し、「メルカリShops」で販売するリユース推進の実証実験を開始)。
メルカリとヤクルト山陽は、ヤクルトセンター・営業所3カ所で「メルカリ教室」も開催しており、リユースを通じて環境問題に向き合いながら、ヤクルトレディや市の職員との交流にもつながる施策はシニア層のコミュニケーションを促す機会にもなっています。
ここまで、令和シニアのデジタル活用を中心に、従来のアクティブシニアと変わらない面と消齢化が進んだ新しい面を探ってきました。令和シニアに関する実態調査とその分析結果の詳細については「令和シニア白書」をご覧ください。
Hakuhodo DY ONE 第一クリエイティブ本部 第三クリエイティブ局 山口部 部長
D2C業界に特化した広告代理店のディレクターを経て、2016年アイレップ(現 Hakuhodo DY ONE)に入社。入社後は化粧品・健康食品・旅行・金融業界など50代以上をターゲットにした商材・サービスを中心にプランニングと制作を担当。大学在学中に訪問介護員2級養成研修課程(ホームヘルパー2級)修了。
そのシニア像、もう古いかも? シニアマーケの新常識「令和シニア」とは
令和シニアを攻略する「マーケティング」 敬老の日プロモーションに学ぶヒントCopyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
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