現在、日本は65歳以上の人口割合が29.1%と過去最高(2023年時点)、国民の3人に1人がシニアとなる世界一の超高齢社会となっており、この傾向は加速しています(参照:総務省統計局「人口推計調査」)。
その中で70代のシニア世代におけるスマートフォンなどのデジタルデバイス所有率は8割を超えており、他の世代の利用率に近付きつつあります。また、60代でのインターネットの利用率も他の世代に近付いているとの調査結果も出ています。
こうした変化の背景には、新型コロナウイルスの流行や高年齢層に向けたデジタルデバイスの普及が考えられます。日常的にインターネットを活用するシニア世代は前期高齢者を中心に「令和シニア」と呼ばれ、いま注目を集めています。
前回は、従来のシニア像と異なる面を見せている「令和シニア」について紹介しました。今回は、各社が展開した、敬老の日のさまざまなプロモーション事例から、シニアを取り巻く新たな動きと攻略に必要なマーケティングのヒントを探ります。
敬老の日は、祖父母と孫がコミュニケーションを取るきっかけとなる日です。そのため、各企業は毎年この時期にさまざまなキャンペーンを展開します。
その中でも定番のキャンペーンは、メッセージカードや花を贈ることで日頃の感謝を伝えるものです。しかし、デジタルデバイスの普及に伴って年代間での好みや価値観の違いが少なくなる「消齢化」(※)現象が進んだことにより、いつまでも現役でいたいと願うイマドキの「令和シニア」が増えました。
こうした生活者のインサイトに合わせて、近年は年齢を感じさせない企画を展開している企業が増えてきています。
(※)「消齢化」「消齢化社会」は株式会社博報堂の登録商標です
令和シニアをターゲットにした企画の特徴として、子世代や、孫世代に当たるZ世代を双方向に巻き込み、世代を超えて楽しめる「ユニバーサル」なキャンペーンであることが挙げられます。
前述したメッセージカードや花の贈呈は、年賀状と変わらないコミュニケーション手段であり、あくまで一方向的に感謝を伝えたり、あらためて関係性を認識したりする役割を持つものです。
しかし、昨今はデジタルデバイス接触機会が増え、LINEやビデオ通話での世代間コミュニケーションは当たり前の文化として定着しつつあります。こうした背景から敬老の日においても、同じ思い出を作り、そこから会話が生まれるような双方向性の高いキャンペーンが増えてきています。実際に例を見てみましょう。
・プレゼント制作の過程もエンタメ化
フォトスタジオを運営するクッポグラフィーは2024年の敬老の日、家族全員にとって楽しい敬老の日の思い出になるような特別プランを提供しました。
孫の手作り招待状が届くほか、孫がヘアメイクの手伝いをしたり、カメラマンになって撮影を体験できたりします。撮影した写真は2025年度版カレンダーにすることもでき、体験を含めた記念品としてその場限りではないプレゼントの工夫が施されています。
・プレゼントした側も一緒に楽しむプレゼントキャンペーン
大塚製薬のオロナミンCは「家族みんなに元気ハツラツ キャンペーン2024」を開催しました。公式Xアカウントのフォローと、テーマに沿ったエピソードを添えてキャンペーンポストを引用投稿することで、オロナミンC 6本入りギフトBOXを抽選でプレゼントするというキャンペーンです。
仕組み自体は一般的なキャンペーンですが、シニア向けのブランドイメージがないドリンクを試飲するきっかけ作りになることから、家族で一緒に飲んで楽しむというコミュニケーションが生まれ、家族のつながりを創出できる点がポイントになっています。
・大量購入・大幅割引をフックに家族ごとファン化
クリスピー・クリーム・ドーナツは2023年、敬老の日に向けて、本体価格3900円までの会計で利用できる年代別クーポンを用意しました。クーポンは「70代=70%OFF」「80代=80%OFF」「90歳以上=90%OFF」の3パターンで、シニアのアプリ利用を促進し、3900円まで利用できるといった大量購入を促す設計となっています。
シニアだけでなく家族と一緒におやつを楽しむ機会を提供することで、子どもや若者に好まれるスイーツというイメージが強いドーナツをシニア世代にアピールしました。
・リンクコーデによるお出かけの提案
イオンリテールは、もともと幅広い年代のファッション展開をしている強みを生かして、2022年に「おばあちゃんとリンクコーデ」特設ページを開設しました。学生向けブランド「ダブルフォーカス」のInstagramで、当時SNSで流行していた「おばあちゃんとリンクコーデ」「おばあちゃんと服交換してみた」「おばあちゃんとマネキンコーデ」のリール動画を公開し、世代を超えて外出や余暇をお互いに楽しむライフスタイルを提案しました。
こうしたプレゼントを贈るだけではない企画が目立ってきている背景として、シニア世代の「現役意識」が強いことや、シニアとして受動的にお祝いされるのではなく自らが主体となってイベントの過ごし方を選択し、楽しみたいという気持ちがあることが考えられます。
令和シニア研究所が、60歳以上の男女466人に「新しく何かを始めた際のきっかけ」に関するアンケート調査を実施したところ、「子や孫からの勧め」と回答した人が9人(2%)に対し、「自分がもともと興味を持っていたから」と回答した人が86人(18%)という結果も出ています。
また、50〜84歳の女性300人を対象とした別のアンケート調査では、敬老の日にお祝いされると想定される対象の年齢を聞いたところ、平均70.7歳と高めの回答でした。敬老の日にお祝いされたくないと回答した245人のうち、「祝われる年齢ではないと思う」と回答した人が、60代で67人(46.5%)、70代でも15人(21.7%)と多く見られました。
まさに自立して物事を選択し、自身を従来のシニアとしてカテゴライズしない生涯現役の意識の高さが両データから読み取れます。ただ一方で、「自分がお祝いされるなら孫にされたい」と回答する人も一定数おり、現役意識と世代を超えたコミュニケーションをつなぎ込む施策が、令和の敬老の日を攻略する一つのキーワードになっているのかもしれません。
シニアの代表イベント「敬老の日」では、デジタルデバイスの普及に伴って「消齢化」現象が進み、一方向的に与えるものではなく子・孫世代も巻き込んだユニバーサルなキャンペーンが多く見られるようになりました。こうしたアプローチが令和シニアの強い現役意識にもマッチし、今後もこのような双方向のコミュニケーションを促進させる企画は成功のカギとなりそうです。
このイマドキのシニア像をHakuhodo DY ONEでは「令和シニア」として、既存のシニア像とは区別して捉えています。これからのシニア層へのマーケティングは、「令和シニア」の解像度を上げていくことが必須だと考えています。
次回は、令和シニアのデジタル行動やライフスタイルを徹底解剖した「令和シニア白書」を基に、令和シニアの消費行動やトレンドを解説します。
Hakuhodo DY ONE 第一クリエイティブ本部 第三クリエイティブ局 山口部 部長
D2C業界に特化した広告代理店のディレクターを経て、2016年アイレップ(現 Hakuhodo DY ONE)に入社。入社後は化粧品・健康食品・旅行・金融業界など50代以上をターゲットにした商材・サービスを中心にプランニングと制作を担当。大学在学中に訪問介護員2級養成研修課程(ホームヘルパー2級)修了。
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