私自身、これまで繰り返し「管理職に昇進させた! 後はよろしく!」じゃなく、教育とサポートを徹底する必要性を訴えてきました。管理職には感情労働やストレスへの対処に関する知識習得や、部下の育成スキルのトレーニングが必要だ、と。
その主張が件の調査でも裏付けられたということでしょう。
日本企業はこれまで管理職を「昇進への階段」と位置付けてきました。しかし、管理職に求められるのはマネジメントであり、プレイヤーとは別物です。
米国の企業では1980年代からマネジメントに進む道と専門職の道を設けたうえで、マネジメントに進む人には相応のマネジメント教育を徹底してきました。GE(ゼネラル・エレクトリック)の人事評価制度は有名ですが、マネジメントは評価をする人です。
実際にGEでマネジメントを経験した人たちに以前インタビューしたところ、人間的な成熟を促す教育がかなり重視されていて「仕事ができるだけではマネジメントは務まらない」という認識が共有されていると教えてくれました。ここでの成熟とは「自分のためでなく、組織やチームのためにやる」という意識の徹底で、それを実現するには「人間の中身を磨く」しかないのだ、と。まさに「人間力」です。
管理職は未来の社長候補・幹部候補なので、経営のことも学ばないといけません。そうした管理職を一人生み出すことはとても時間がかかります。手間と時間とコストをかけなければ、中間管理職は機能しないのです。ただただ時間に追われ、仕事に追われ、メンタルを損ない、疲れ果てる。これでは「管理職=罰ゲーム」と言われるのも当然でしょう。
さらには、管理職になった後も「学ぶ機会=自分を知る機会」を企業は提供する必要があります。例えば、自分と同じ様な立場の他社の管理職たちと、彼らがどのように部下と接しているかを話しあうだけでも、気付くこともあるはずです。
私は中間管理職向けのセミナーで、いつも上司部下面談のロールプレイをやるのですが、すごく盛り上がります。「自分はこんな風に部下と向き合ってない」と反省したり、参考にするようになったり。たった1日のセミナーでも、彼ら彼女らが成長する姿を目の当たりにしてきました。
会社の外に出て、自分の強みや弱み、未熟な部分を知らないと、他人に自信をもって言葉をかけられないし、他人を育てることも難しいのです。
そして、もう一つ忘れてはならないのは、彼ら彼女らも「ただの人」という当たり前です。
前述の調査では、7割近くの人が「心身の健康が損なわれた」としていました。
かつては「油を売るおじさん」や「窓際族」になっていた中高年社員が「管理職」たちをサポートしてくれたり、仕事で傷ついても飲み屋やスナックのように傷を癒やせる場所が職場の外部にあったりしました。会社の中にも外にも「サポートの場と人」があったからこそ、しんどくてもふんばっていけたのだと思います。
時代は変わり、働き方、出世の価値観も、上司と部下の関係も変わったのですから、会社はきちんと時代にあった働かせ方、育成の仕方を徹底する必要があります。そうすれば、管理職は罰ゲームなんて言われなくなることでしょう。
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。
研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)、『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)、『定年後からの孤独入門』(SB新書)、『コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)『THE HOPE 50歳はどこへ消えた? 半径3メートルの幸福論』(プレジデント社)、『40歳で何者にもなれなかったぼくらはどう生きるか - 中年以降のキャリア論 -』(ワニブックスPLUS新書)がある。
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