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部下の意見「聞いて終わり」 ”傾聴地蔵”が崩壊させる組織、どう変えるべきか石角友愛のキャリアコンパス(3/3 ページ)

» 2025年01月27日 08時30分 公開
[石角友愛ITmedia]
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「傾聴地蔵」問題解決のために求められる姿勢は?

 ここまで見てきたように、「傾聴地蔵」を解消して組織の活力を取り戻すためには、上司やマネジャーが単に部下の意見を聞くだけでなく、それを行動に移し、組織の成長につなげるための具体的な体制を構築することが必要です。

 ここでは、問題解決のために求められる姿勢や行動をいくつか提案します。

1. 意見を「聞く」だけでなく上司も部下も「動く」文化の醸成

 部下の意見を行動に移す文化を作るには、上司自身が率先して動く姿を示すことが重要です。例えば、部下から提案があった場合、その内容を具体的なプロジェクトとして立ち上げたり、関連する他部門と連携を図るなど、目に見える形でアクションを起こしたりします。

 また、上司が全て行動に移すことは現実的ではなく、部下の成長の機会を奪いかねません。部下が意見を述べ、その意見に基づき部下自身が自分で行動を起こすことを奨励する文化と体制を構築することが大事だともいえます。このことで、部下は「意見が実際に反映される」という実感を持ち、モチベーションやエンゲージメントが向上します。

2. フィードバックを通じた透明性の確保

 全ての意見を採用することが現実的でない場合でも、適切なフィードバックを行うことが大切です。例えば「その提案は良いが、現在のリソース状況では難しい」「次の四半期に再度検討したい」といった明確な理由や代替案を提示することで、部下の納得感を高めることができます。このような透明性のある対応は、組織内の信頼関係の構築にも寄与します。

3. 挑戦的な目標設定と適切なサポート

 米国企業で成功しているGoogleのOKRシステムから学ぶべき点は、挑戦的な目標を設定し、それを達成するための適切なサポートを提供することです。特に、若手社員には自主性を引き出すような目標を与える一方で、実現可能なリソースや相談環境を整えることが重要です。部下の成長を促進するための具体的な教育プログラムやコーチング体制を整えることも効果的です。

4. 組織全体での取り組み

 傾聴地蔵の解決は、個々の上司だけでなく、組織全体での取り組みが必要です。例えば、マネジメント層への研修プログラムを強化し、「傾聴だけで終わらない行動」の重要性を教育することが求められます。また、部下の意見が組織全体にどのように反映されたのかを可視化し、成功事例を社内で共有することで、上司の意見を押し付けるだけでなく、若い世代の意見を大切にする文化を醸成することができます。

5. 米国の成功事例を日本風にアレンジ

 米国企業でのOKRシステムのように、明確な目標設定と進捗管理の仕組みを取り入れる一方で、日本独自の文化や価値観を反映させたアプローチが必要です。例えば、日本ではチームワークや調和が重視されるため、個人目標だけでなく、チームとしての目標を設定し、それに向けて全員が協力し合う仕組みを導入することが考えられます。

組織変革の鍵は「行動」と「透明性」

 傾聴地蔵が引き起こす問題は、単なる個人のマネジメントスタイルの問題にとどまりません。組織全体の文化やシステムがこの現象を助長している場合が多くあります。これを解決するためには、上司が部下の意見を具体的な行動に結びつける文化を作り、組織全体で意見が反映される透明性を確保する必要があります。

 若手社員の離職を防ぎ、組織の競争力を高めるためには、上司が「聞くだけで終わり」ではなく、「行動する」姿勢を示し、若手のモチベーションやエンゲージメントを高く保つことが不可欠です。

 そのためには、米国の成功事例に学びつつ、日本独自の文化を生かしたアプローチを組み合わせることが求められます。これにより、部下の意見が組織の成長や競争力に結びつくとともに、若手にとってもベテランにとっても働きがいのある職場環境を実現することができるのではないでしょうか。

著者プロフィール:石角友愛(いしずみ・ともえ) 

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パロアルトインサイトCEO/AIビジネスデザイナー

2010年にハーバード・ビジネス・スクールでMBAを取得した後、シリコンバレーのグーグル本社で多数のAI関連プロジェクトをシニアストラテジストとしてリード。その後HRテック・流通系AIベンチャーを経てパロアルトインサイトをシリコンバレーで起業。東急ホテルズ&リゾーツのDXアドバイザーとして中長期DX戦略への助言を行うなど、多くの日本企業に対して最新のDX戦略提案からAI開発まで一貫したAI・DX支援を提供する。2024年より一般社団法人人工知能学会理事に就任。

AI人材育成のためのコンテンツ開発なども手掛け、順天堂大学大学院医学研究科データサイエンス学科客員教授(AI企業戦略)及び東京大学工学部アドバイザリー・ボードをはじめとして、京都府アート&テクノロジー・ヴィレッジ事業クリエイターを務めるなど幅広く活動している。

毎日新聞、日経xTREND、ITmediaなど大手メディアでの連載を持ち、 DXの重要性を伝える毎週配信ポッドキャスト「Level 5」のMCや、NHKラジオ第1「マイあさ!」内「マイ!Biz」コーナーにレギュラー出演中。「報道ステーション」「NHKクローズアップ現代+」などTV出演も多数。

著書に『AI時代を生き抜くということ ChatGPTとリスキリング』(日経BP)『いまこそ知りたいDX戦略』『いまこそ知りたいAIビジネス』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『経験ゼロから始めるAI時代の新キャリアデザイン』(KADOKAWA)、『才能の見つけ方 天才の育て方』(文藝春秋)など多数。

パロアルトインサイトHP

お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com

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