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仕事観の変化やテクノロジーの進化によって、キャリアの「正解」は消滅した。複雑で高度化するビジネス環境で活躍し続けられる人材になるためには、市場の風を読み、自身でキャリアを作り上げていく必要がある。キャリアは一日にして成らず──シリコンバレー在住の石角友愛(パロアルトインサイトCEO・AIビジネスデザイナー)とともに、自分なりの「正解」を考えていこう。
こんにちは。パロアルトインサイトCEOの石角友愛です。近年、日本の大手企業において、若手社員の早期離職が深刻な問題となっていると聞きます。
この問題の背景には「傾聴地蔵」といわれる、上司の存在があるのではないでしょうか。傾聴地蔵とは、部下の意見を聞くものの、改善や変化を起こさない上司を指す言葉で、意見の押し付けと同様に部下のモチベーションやエンゲージメントに悪影響を与える可能性があります。
厚生労働省の調査(PDF)によると、大卒の新卒社員のうち3割以上が入社から3年以内に退職しています。少子高齢化により労働力人口が減少する中で、この早期退職が企業存続に関わる重要な課題として認識され始めています。
特にこの問題は、いわゆる「JTC:Japanese Traditional Company」と呼ばれる伝統的な大企業に多く見られるようです。若手の早期離職が増えている原因としては「価値観・キャリア観の変化」「転職の一般化」「旧態依然とした企業体質」が主に挙げられます。
前の2つは外的要因のため、ある程度の人材流出は仕方がないかもしれません。一方、旧態依然とした企業体質は組織の根深い問題です。
成果主義を掲げながらも、実際の評価は年功序列や上司の主観に依存していたり、上司の「べき論」や「過去の成功体験の押し付け」によって若手社員が発言しにくい環境が出来上がってしまっていたりと、一筋縄ではいかない問題が積みあがっています。
組織の中でも「上司」という存在は、若手社員に対して大きな影響力を持ちます。最近は先述した「組織全体の課題」だけでなく、上司に対する不信感から退職を選ぶ若手社員も少なくないように思います。
冒頭で紹介した、傾聴地蔵も旧態依然とした企業体質から生まれたものではないでしょうか? 傾聴地蔵は組織や若手社員にどのようなネガティブな影響を与え得るのか。改善のために求められる行動について考察します。
そもそも「傾聴」とは、米国の臨床心理学者カール・ロジャースが提唱したもので、相手を深く理解するための行為を指します。 ただ相手の話を聞くだけではなく、共感したり、深掘りする質問を投げかけたりして、相手の話をさらに引き出す力として定義されます。
ビジネスのシーンでは、部下との個人面談や営業の取引先とのやりとりなどで、傾聴力が必要とされる場面が多いでしょう。傾聴が大事だとされる背景には、相手に自分のことを話す過程で思考や感情が整理されることが挙げられます。よって、正しく傾聴をしていれば、本来であれば相手にとって満足のいく機会となるはずです。
しかし、ビジネスの傾聴、とりわけ部下との関係における傾聴では部下から改善策などを提示される機会も多くなってくるはずです。
傾聴地蔵とは、そのようなときに、部下の意見をただ「聞いて終わり」にする上司を指します。表面上は部下の意見やフィードバックに耳を傾ける良い上司に見えますが、それに対して何のアクションも起こさないことが特徴です。部下が改善策や提案をしても、それが実行に移されることはほとんどなく、ただ「聞き流される」だけの状況が続きます。
「意見が聞き流される」状況が続くと、部下は次第に自分の意見が無駄であると感じ、組織への信頼感が低下していきます。また、「改善の兆しが見えない」という感覚は、部下のモチベーションやエンゲージメントの低下を招きます。部下は次第に自分の意見が無視されていると感じるようになり、最終的には仕事に対する熱意や忠誠心を失った「学習性無気力状態」に陥ってしまうのです。
若手が学習性無気力状態に陥り、意見を出さなくなった組織では、新しいアイデアや提案が生まれにくくなるでしょう。変化の激しいビジネス環境において、イノベーションを生み出す力は組織の競争力を左右しますが、傾聴地蔵の存在がそれを阻害してしまうのです。結果として、企業は外部環境への適応が遅れ、競争力を失うリスクも高まります。
実は、米国の組織においても上司やマネジャーが機能しないことで現場との乖離が生じる例が多く見られます。例えば、現場の実情を把握せず、教科書的な評価基準やフレームワークに従って過度な目標を設定する上層部や、現場に過度な負担をかける経営者の存在が問題とされています。これにより、マネジャー自身が疲弊し、部下を効果的に支援できない状態に陥ってしまうという構造的問題が生じているのです。
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