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生成AI時代に求められる「言語化力」 良い・悪いプロンプト例に学ぶ石角友愛のキャリアコンパス(1/2 ページ)

» 2024年08月30日 08時30分 公開
[石角友愛ITmedia]

連載:石角友愛のキャリアコンパス

仕事観の変化やテクノロジーの進化によって、キャリアの「正解」は消滅した。複雑で高度化するビジネス環境で活躍し続けられる人材になるためには、市場の風を読み、自身でキャリアを作り上げていく必要がある。キャリアは一日にして成らず──シリコンバレー在住の石角友愛(パロアルトインサイトCEO・AIビジネスデザイナー)とともに、自分なりの「正解」を考えていこう。

 こんにちは。パロアルトインサイトCEOの石角友愛です。コロナ禍のフルリモート下でテキストコミュニケーションが活発になり、文章の形で簡潔に分かりやすくまとめる力が多くの人に求められました。

 AIとの共存を考えると、社内での暗黙の了解の上に成り立つコミュニケーションのもう一つ上の次元のスキルが「言語化力」として求められるようになってきていると言えます。

 ChatGPTをはじめとした生成AIには、主にテキストで指示や質問をします。リモートワークによるテキストコミュニケーションだけではなく、限られた時間でChatGPTなどの生成AIなどを活用して最大限のアウトプットを出し続けるためにも、「言語化力」を磨くことは今後のキャリアにおいてとても大事なのです。

生成AI時代においては、より「言語化力」を磨くことが必要になる(画像:ゲッティイメージズより)

 生成AIに指示を出すことを「プロンプトエンジニアリング」と言いますが、プロンプトエンジニアリングにも良い例と悪い例があることをご存じでしょうか。

悪いプロンプトエンジニアリング 3つの例

 まず、悪いプロンプトエンジニアリングの例として、以下のようなものが挙げられます。

・あいまいな指示:例「AIについて教えてください」

 このプロンプトの問題点は、AIが焦点を絞った回答を生成するのに十分な文脈や具体性を提供していない点です。良質な回答を導き出すには、具体的にAIのどういった特徴について知りたいのかを示す必要があります。

・文脈の欠如:例「最善の解決策は何ですか?」

 背景情報や問題の説明を一切提供せずに解決策だけを尋ねても、AIは適切な回答を用意できません。より具体的な解決策を導き出すためには、解決したい課題に関するより具体的な文脈の説明が必要です。

・複雑すぎる質問:例「AIの歴史について教えてください。それから、今後のAIの発展予測も知りたいです。また、AIの倫理的な問題についても詳しく説明してください。そして、ChatGPTの仕組みとその限界についても解説してください」

 このように、無関係な複数の質問を1つのプロンプトに詰め込むと、焦点が定まらず、不完全な回答やバラバラの回答になる可能性があります。一度に質問するのではなく、それぞれの質問を個別に分けると、より具体的で質の高い回答が得られます。

 不適切なプロンプトエンジニアリングは、あいまいで不正確、無関係なアウトプットにつながることが多いということが分かっていただけたでしょうか。

 実は、これらの悪い例は普段のコミュニケーションにも当てはまります。

 例えば、社内で上司が「あれやっておいて」といったような不明瞭な指示を出してしまうと、部下は文脈の理解や指示の趣旨の解釈に不必要なリソースを割かなければいけなくなります。社外でもこういった例は散見されます。プレゼンテーションの際、それまでの文脈や受け手の前提条件を無視した進め方をしてしまうと、オーディエンスは理解が追い付かず、興味もなくなり、離脱せざるを得ません。

 他にも、抽象的であいまいなアイデアに議論が終始しプロジェクトがいつまでも動かずに頓挫したり、複雑で焦点の定まらないリクエストを一気に出すことで望んだ回答や対応が得られなかったり──もしかしたら皆さんも身に覚えがあるかもしれません。

 これら悪い例の共通点は「伝える側が受け手の立場に立っていない」ということです。もっと言うならば、受け手がなんでも分かってくれるスーパーヒューマンであるという前提で、伝える側が「伝える努力」を放棄しているのです。自分本位な文脈や感覚で「あれやっておいて」とだけ言えば相手が思い通りに対応してくれるという前提条件や、一気に無関係の複数のリクエストを出しても相手が全て網羅して対応してくれるという考え自体が、そもそも伝える側だけに都合のよい「思い込み」に他なりません。

 「阿吽の呼吸」や「行間をくみ取って判断する」といったニュアンスに頼ったコミュニケーションは、会社内や家族間で日常的に行われています。しかし、AIを相手にしたプロンプトエンジニアリングにおいては、こうした不完全なコミュニケーションは機能しません。

 結局「受け手の立場に立って分かりやすく説明する」という高度な言語化スキルは、相手が人間であってもAIであっても、良いアウトプットを導くために重要なスキルに他ならない、ということです。

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