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生成AI時代に求められる「言語化力」 良い・悪いプロンプト例に学ぶ石角友愛のキャリアコンパス(2/2 ページ)

» 2024年08月30日 08時30分 公開
[石角友愛ITmedia]
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良いプロンプトエンジニアリングとは?

 それでは、良いプロンプトエンジニアリングにはどういうものがあるのでしょうか。

・(1)明確で具体的な指示:例「AIの歴史について、年代ごとの主要なマイルストーンを中心に説明してください」

 このプロンプトは、質問が具体的で求める情報が明確に定義されているため、AIから具体的な回答を得やすい良い例です。

・(2)役割や文脈情報が示された指示:例「プロフェッショナルなマーケターとして、次の3カ月間の売上データを分析し、月ごとのトレンドをグラフ化してください。特に、主要製品の売り上げがどのように変化しているかに焦点を当て、前年同期と比較してください」

 このプロンプトが優れている理由は、3つあります。まず、分析とグラフ化というタスクがはっきり示されており、AIが何を行うべきかが明確な点です。さらに、主要製品の売上変化に焦点を当てるよう求めることで、AIの分析が目的に合致したものとなります。また「前年同期との比較」という文脈を加えることで、過去との関連性を持たせたより有意義な結果が得られるようになります。

・(3)順序立てた指示:例「以下の手順に従って、大学の小論文を4段落で書きなさい。1) 研究の背景と目的を説明する。2) 研究で直面した主要な課題について述べる。3) その課題をどのように解決したか、具体的な手法を説明する。4) 研究の結果を今後の研究課題や応用にどのように結びつけるかを考察する」

 このプロンプトでは各段落でカバーすべき内容が順を追って指示されているため、AIは論理的かつ一貫性のある文章を生成しやすくなります。さらに、AIが内容を自然な流れで展開できる構成であるため、読み手にとっても理解しやすい論文が作成されます。このような明確で順序立てた指示は、AIの出力品質を高める良い例です。

 このように、テキストによるコミュニケーションでは「具体的」「詳細」「明確」「段階的」といったポイントを念頭におくことが大切です。ChatGPTとのやりとり一つとっても、こうしたポイントを意識するだけで、ビジネスに通用するコミュニケーショスキル、書くスキルは鍛えられます。

 プロンプトエンジニアリングは生成AI活用を快適に行うためだけのものではなく、実はあらゆるコミュニケーションの本質的な部分を考え直すきっかけになるのです。

 言語化力や相手の立場を考えて的確に物事を伝える能力はビジネスにおいて無駄なリスクを避けるために重要です。そのため、米国では多くの会社が研修、ツール導入をして育成に努めています。

 コミュニケーションスキル向上のためのツール提供に特化した会社「Firstup」を紹介します。米カリフォルニア州で2015年に設立されたFirstupは、従業員エンゲージメントを向上させ、コミュニケーションを改善するためのコミュニケーションプラットフォームを提供しています。世界中の500以上の企業が採用しており、180カ国・1800万人の従業員にリーチしています。

 また「Fortune 100」(グローバル企業の総収入ランキングトップ100)企業の40%が同社のサービスを利用しており、2023年には年間売上が1億ドル(約150億円)を超える成果を達成したとして注目を集めています。

Firstup(画像:Firstup公式Webサイトより)

 Firstupが提供しているサービスには、以下のようなものがあります。

  • パーソナルなコンテンツ配信:従業員個々のニーズや好みに応じて情報を提供する仕組みがあり、各人に最適化されたメッセージを配信します。例えば、JetBlue航空では、パイロット、地上スタッフ、事務スタッフなど職種別に会社からのコミュニケーションを分類して、よりパーソナルなコンテンツを配信することでエンゲージメントを高めたといいます。
  • 分析とインサイト:従業員のエンゲージメントに関するリアルタイムのデータを提供し、コミュニケーションの効果を測定します。
  • マルチチャネルアプローチ:従業員が普段から使用しているモバイルデバイスを含むさまざまなプラットフォームを通じて、情報を届けます。
  • オートメーション:AIと機械学習を活用してコミュニケーションプロセスを自動化し、最適化された配信を行います。
Firstupが提供しているサービス(画像:Firstup公式Webサイトより)

 Firstupの成功事例として興味深いのが、Providence(プロビデンス)という医療システムの事例です(参照:PDF)。

 プロビデンスは、7つの州で12万人以上の従業員を抱える大規模な医療システムであり、多様な従業員との効果的なコミュニケーションに課題を抱えていました。

 そこでFirstupと提携し、コミュニケーションチャネル、システム、アナリティクスを統一。Firstupのプラットフォームを導入することで、プロビデンスはコミュニケーション活動を効率化し、モバイルデバイスを通じて従業員の85%にリーチできました。

 このコミュニケーション戦略の改善により、プロビデンスは新型コロナウィルスのパンデミックにも迅速に対応できるようになり、日々の医療業務が効率化されました。Firstupのプラットフォームには分析機能が付いており、この機能により従業員のエンゲージメントに関する貴重な洞察を得たり、メッセージングをパーソナライズしたりすることで、全体的なコミュニケーション効果を改善するのに役立ったといいます。

 結果として、プロビデンスでは従業員のエンゲージメントが大幅に向上し、コミュニケーションの閲覧数、「いいね!」数、既読数、コメント数、共有数が前年比で151%増加したとのことです。

Firstupによって従業員のエンゲージメントが向上した(画像:Providence_CaseStudyより)

 「コミュニケーショスキル」や「言語化スキル」というと、思考能力をどう磨くかといった上流工程のスキル、抽象化したスキルだと思いがちです。しかし、Firstupの事例が示すように、以下のような要素を持つツールの導入・活用によって言語化スキルを向上させることも一つのソリューションであるといえます。

  • 自分の業務に関連する人々とタイムリーかつ頻繁に、具体的なコミュニケーションが取れること
  • コミュニケートする内容がパーソナルなメッセージになっていること
  • 質問したいと思ったら、気軽にできるUIであること

 テキストでのコミュニケーションや指示出しが主流となる生成AI時代により一層重要となる「言語化スキル」。みなさんもぜひChatGPTを相手に磨いてみてはいかがでしょうか。

著者プロフィール:石角友愛(いしずみ・ともえ) 

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パロアルトインサイトCEO/AIビジネスデザイナー

2010年にハーバード・ビジネス・スクールでMBAを取得した後、シリコンバレーのグーグル本社で多数のAI関連プロジェクトをシニアストラテジストとしてリード。その後HRテック・流通系AIベンチャーを経てパロアルトインサイトをシリコンバレーで起業。東急ホテルズ&リゾーツのDXアドバイザーとして中長期DX戦略への助言を行うなど、多くの日本企業に対して最新のDX戦略提案からAI開発まで一貫したAI・DX支援を提供する。2024年より一般社団法人人工知能学会理事に就任。

AI人材育成のためのコンテンツ開発なども手掛け、順天堂大学大学院医学研究科データサイエンス学科客員教授(AI企業戦略)及び東京大学工学部アドバイザリー・ボードをはじめとして、京都府アート&テクノロジー・ヴィレッジ事業クリエイターを務めるなど幅広く活動している。

毎日新聞、日経xTREND、ITmediaなど大手メディアでの連載を持ち、 DXの重要性を伝える毎週配信ポッドキャスト「Level 5」のMCや、NHKラジオ第1「マイあさ!」内「マイ!Biz」コーナーにレギュラー出演中。「報道ステーション」「NHKクローズアップ現代+」などTV出演も多数。

著書に『AI時代を生き抜くということ ChatGPTとリスキリング』(日経BP)『いまこそ知りたいDX戦略』『いまこそ知りたいAIビジネス』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『経験ゼロから始めるAI時代の新キャリアデザイン』(KADOKAWA)、『才能の見つけ方 天才の育て方』(文藝春秋)など多数。

パロアルトインサイトHP

お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com

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