リテール大革命

レジ待ち不要、商品を「冷蔵庫にしまってくれる」?――Walmartの顧客体験はここまで進化する石角友愛とめぐる、米国リテール最前線

» 2024年02月09日 08時00分 公開
[石角友愛ITmedia]

連載:石角友愛とめぐる、米国リテール最前線

小売業界に、デジタル・トランスフォーメーションの波が訪れている。本連載では、シリコンバレー在住の石角友愛(パロアルトインサイトCEO・AIビジネスデザイナー)が、米国のリテール業界の最前線の紹介を通し、時代の変化を先読みする。

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ツールを導入してマーケティングを強化する企業が増えている一方で、思い通りの成果を出せないと感じている企業が多いことも事実だ。セールスとマーケティングを連携することで、売上に貢献する仕組みづくりを解説する。

 今回はCES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)で紹介された米Walmartの新しいリテールテクノロジーについてご紹介します。

 CESの基調講演でWalmart CEOマクミラン氏は、AIを使ってさまざまな顧客体験を改善することを発表しました。

WalmartはAIを活用してさらなる顧客体験向上を目指すと発表した(写真はイメージ)

 発表内容は大きく「生成AIによる検索機能強化」「WalmartアプリでのAI活用」「ドローン配達」の3つです。以下で詳しく紹介します。

1. 生成AIによる「検索機能」の強化

 Walmartは自社アプリ内の検索機能を強化するために生成AIを活用することを発表しました。

 新しい機能にはマイクロソフトのLLM(大規模言語モデル)が使われており、Walmartが持つ顧客の関連データを掛け合わせることで、検索の質と関連性を上げて、ユーザー一人一人が求めていることに対してより関連性の高い検索結果が提示できるようになるといいます。

 例えばパーティーを計画している顧客がいる場合、アプリ内で「チキンウイング」「チップス」「ドリンク」「紙皿」などとカテゴリーごとに検索してそれぞれ購入してもらうのではなく、「パーティー」という単語一つの検索で全てが表示されるようになることで、購入までのプロセスにおける手間を減らすアイデアが示されています。

 また、顧客ごとに過去の検索履歴や位置情報、その他関連性の高い情報を加味することで、検索結果をさらにパーソナライズするといいます。

 生成AIの活用というと、文章作成や編集などを思い浮かべる方も多いと思いますが、ビジネスの現場での生成AI事例で今注目されているのが、こうした検索機能の強化なのです。

 インナーウェアのメーカーであるヴィクトリアシークレットもまた、グーグルのクラウドAIを使ってサイト内の検索機能を強化しています。例えば、好みのブラジャーの写真を検索バーに貼り付けると、同じようなタイプのブラジャーを検索結果で表示してくれます。

 アパレルは自分の好みがある程度決まっているにもかかわらず、言語化しにくい、または検索エンジンで細かいフィルターを選ぶのが大変(サイズ、色、タイプなど)ということがあります。検索結果で同じ雰囲気の商品が画像で表示されるようになれば、ECの顧客体験はより良いものになるでしょう。

画像を検索ボックスに貼り付けると……
図のような検索結果が表示される(Victoria’s Secretの例)

2. レジ並び不要、使用頻度に応じて自動購入――アプリでのAI活用

 Walmartおよび系列店のSam's Clubのアプリでは、店舗内にいる顧客に対して、普段その顧客が購入する商品がカートに入っていない場合にリマインドをしてくれるAI機能が追加されるということです。

 顧客がレジに並ばなくても商品を購入できるよう、コンピュータビジョンとAIを活用し、カート内の商品を自動で認識してアプリで自動的に決済するScan&Go機能を導入するとのことです。これにより、顧客はレジ待ちや精算のプロセスを省略してそのままお店を出ることができるようになるといいます。

 また、Walmart+のAIを使った新しい機能として、In Home Replenishimentというサービスも発表されました。これは、単純な定期購入(例えば2カ月に一回トイレットペーパーが届くなど)と異なり、各商品の消費の早さや仕様頻度に関する変化をAIが検知し、商品ごとに補充が必要な時期を見定めて自動購入し、さらにWalmartの担当者が商品を家の冷蔵庫や棚まで届けてくれるというものです。

 通常の定期購入サービスも便利ですが、環境の変化により商品の使用頻度が変わることは多々あります。例えば私はアマゾンサブスクリプションで洗濯洗剤を定期的に送ってもらっていましたが、昨年出産したことをきっかけに、赤ちゃんでも使える洗剤に変えることにしました。

 そのためサブスクリプションで購入した洗剤が大量に余ってしまい、結局サブスクリプションサービスを停止しました。こうした経験を踏まえると、自動的に使用頻度を変更してくれる点は非常に魅力的です。また、届いた商品を箱から出し、冷蔵庫にしまうといった行為は、ユーザーが通常は自分で行わなければいけない面倒なタスクです。そのような工程をギグエコノミーの活用により自動化してくれているのもポイントが高く、魅力的です。

3. 注文から10分で配達完了? ドローン活用

 ドローンによる配達を強化する旨も発表されました。具体的には、テキサス州のダラスフォートワース都市エリアの75%もの家庭に対し、24年中にドローンでの配達を実現すると宣言しました。

 これにより、注文を受けてから10〜30分以内に商品を届けることが可能になるといいます。顧客はドローン配送業者のZiplineと、Alphabetの子会社であるWingを通じて注文を受け取るそうです。

 このように24年のWalmartはAIやドローンなどを活用し、顧客体験をより良いものにするための技術投資をする計画を発表しました。ライバルとして比較されるAmazonとの対比という観点からも、家の中にまで担当者が入ってきて商品を冷蔵庫や棚に詰めてくれるサービスなど、痒いところに手が届くアプローチで顧客のロイヤリティーを高めていくことを狙っているといえます。

著者プロフィール:石角友愛(いしずみ・ともえ) 

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パロアルトインサイトCEO/AIビジネスデザイナー

2010年にハーバードビジネススクールでMBAを取得したのち、シリコンバレーのグーグル本社で多数のAI関連プロジェクトをシニアストラテジストとしてリード。その後HRテック・流通系AIベンチャーを経てパロアルトインサイトをシリコンバレーで起業。データサイエンティストのネットワークを構築し、日本企業に対して最新のAI戦略提案からAI開発まで一貫したAI支援を提供。東急ホテルズ&リゾーツ株式会社が擁する3人のDXアドバイザーの一員として中長期DX戦略について助言を行う。

AI人材育成のためのコンテンツ開発なども手掛け、順天堂大学大学院医学研究科データサイエンス学科客員教授(AI企業戦略)及び東京大学工学部アドバイザリー・ボードをはじめとして、京都府アート&テクノロジー・ヴィレッジ事業クリエイターを務めるなど幅広く活動している。

毎日新聞、日経xTREND、ITmediaなど大手メディアでの連載を持ち、 DXの重要性を伝える毎週配信ポッドキャスト「Level 5」のMCや、NHKラジオ第1「マイあさ!」内「マイ!Biz」コーナーにレギュラー出演中。「報道ステーション」「NHKクローズアップ現代+」などTV出演も多数。

著書に『いまこそ知りたいDX戦略』『いまこそ知りたいAIビジネス』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『経験ゼロから始めるAI時代の新キャリアデザイン』(KADOKAWA)、『才能の見つけ方 天才の育て方』(文藝春秋)など多数。

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