開発に関して、日産が大きく出遅れて北米での販売激減につながったハイブリッド車の技術をホンダから供与されることは、コスト削減および販売能力向上の両面から大きなメリットが得られると思われます。EVの技術開発では日産が先行してはいたものの、ホンダも独自開発での製品化に至っており、既存の技術共有より、むしろ今後増加する研究開発費を、両社で分け合えるメリットが見込めるでしょう。
こうした開発に関する統合効果の陰にある存在として、次世代自動車では駆動技術以上に重要性が高まりそうな、車載ソフトの共同開発によるメリットも見込んでいるはずです。車載ソフトで主導権を握ることは「自動車のスマホ化」といわれる次世代自動車製造・販売の主導権を握ることを意味します。
この世界はスマホのOSやアプリと同じく、ネットワークをいかに早く支配できるかにかかっています。通信ネットワークに関して、接続しているユーザー数の二乗に比例するという「メトカーフの法則」があり、この法則に従うならば、接続ユーザーを増やすことがより大きな収益を生み出すことになるのです。
今回の統合計画が進展した先には、ホンダと日産、さらには日産傘下の三菱自動車(1月末までに、統合協議に参画するか否かを正式表明)も加えた3社の車載ソフトを統一することで、先手必勝であるソフトの世界で主導権を握ろうという未来図が透けて見えてきます。ホンダが、窮地にある日産とあえて経営統合を検討するのは、コストや開発費の削減以上にこうした大局的な観点が大きいと見ています。
仮に両社が経営統合に合意した場合、その先で最も気になるのは、ホンダと日産の企業文化の違いです。ホンダは創業者である本田宗一郎氏由来の自社技術開発にこだわった、独立志向で、チャレンジングな一匹狼的組織文化が有名です。
一方の日産は、古くからどちらかといえばお役所的な官僚組織であるといわれてきました。長期にわたったワンマントップのゴーン政権以降で拍車がかかり、組織内では「指示待ち」「ことなかれ」的な文化がまん延し、現状の業績低迷につながったのだという定評がもっぱらなのです。
この「水と油」にも近い組織文化の違いを克服するためには、主導権を握るホンダが遠慮することなく強いリーダーシップを発揮し、実質的に日産を傘下に収めるぐらいの気概で統合を進められるかがカギであると思われます。100年に一度と言われる大変革期にある自動車業界ですが、過去に同じような大変革期を迎えた2000年前後の大手銀行で相次いだ経営統合劇が、リーダーシップの重要性を教えてくれています。
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日産9000人削減の衝撃 「技術自慢の会社」ほど戦略で大コケする理由Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
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