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【注目の基調講演】生成AIを社員約1.8万人が利用、平均3.3時間を削減――パーソルHDの“AI推進大作戦”、その舞台裏
中国の新興企業DeepSeek(ディープシーク、深度求索)が低コストで開発した生成AIを発表したことで、投資家はAI開発に巨額の投資を行っている米大手IT企業に厳しい目を向けつつある。米大手ITが今週予定する四半期決算の発表でも、この問題が圧倒的な注目を集めそうだ。
DeepSeekは、わずか2カ月と600万ドル(約9億万円)弱の費用で、NVIDIA(エヌビディア)のそれほど先端的でない半導体「H800」を搭載したAIモデルを構築したと主張している。米国では1月27日、大規模言語モデル「V3」で動くこのAIアプリのダウンロード数が、Appleのアプリストアで無料アプリランキング首位を獲得した。
2023年創業のDeepSeekによると、同社のAIモデルは開発費が米国の競合製品よりずっと低いが、性能は同じか上回る。これはAI開発には膨大なコンピューティングパワーと投資が不可欠という従来の考えに真っ向から異議を唱えるものだ。
衝撃が走った1月27日のニューヨーク株式市場では、NVIDIAが17%、Microsoftが2%、台湾積体電路製造(TSMC)の米上場株が13%それぞれ値下がりした。
バーンスタインのアナリスト、ステーシー・ラスゴン氏は「DeepSeekが本当に500万ドルでOpenAI(と同性能の製品)を作ったのかと言えば、当然そうではない。DeepSeekが装備している革新的技術が他の多くのAI開発拠点の最優秀研究者らが完全に知らないものだと考えるのは、いささかこじつけのように思える」と述べた。
ラスゴン氏や他のアナリストは、DeepSeekがV3の学習に要した費用は実際の発表より高い可能性があると主張する。同社が挙げた600万ドル弱には、コンピューティングパワーに投じた金額しか含まれていないからで、より大々的に宣伝している大規模言語モデル「R1」の費用もほとんど分かっていない。
それでも米大手ITが今年AIインフラに投資すると見込まれている2500億ドルに比べれば、はるかに少ない。過去1年にわたり、巨額投資が株主へのリターンにもたらすブレーキが懸念されてきただけに、市場からはそのような投資に疑問が投げかけられている。
こうした中で今週の米大手IT決算では、自社のAI戦略について経営幹部がより明確に示してくれるだろうというのがアナリストや投資家の見方だ。
CFRAのアナリスト、アンジェロ・ジノ氏は「(DeepSeekの台頭は)現在の設備投資と技術更新のペースが果たして不可欠なのかという問いを発している。米大手ITが今週発信するコメントは、彼らが依然としてAI投資に積極的かどうかを見定める上で鍵を握るだろう」と述べた。
ジノ氏は、人間の介在なしに単純作業をこなしたり、物理的法則・環境などに応じて自律的に判断したりするAIエージェントやフィジカルAIに言及。AIがこれらの段階に向かうのにつれて、コンピューティングパワーの増大が必要になる、と米大手ITは強調する公算が大きいと付け加えた。
競争激化と技術進歩によってAIモデルの利用価格は全体的に下がっているとはいえ、ラスゴン氏によると、DeepSeekの価格設定は最低でOpenAIの同性能モデルの40分の1と際立って安い。
複数のアナリストは、これを機にAIサービスの価格戦争が始まり、対話型AI「ChatGPT」の運営費用がかさんで既に毎年数十億ドルを失っているOpenAIなどにとっては重圧が強まる恐れが出てくると予想する。
イーマーケターのシニアアナリスト、ガドホ・セビージャ氏は「DeepSeek(のAI)の普及が拡大すれば、同じオープンソース製品を持つ競合相手が値下げを始めてもおかしくない。(一方で黒字化を追求する)OpenAIなどの市場の先行企業は短期的には値下げしそうにない。彼らは企業ユーザーにとって大事になってきた信頼性と安全性に重点を置き、差別化を図ろうとするだろう」と語った。
実際何人かの専門家は、米中関係の緊張や個人データ保護、セキュリティーを巡る懸念などから米企業が中国のAI技術を採用するかどうか疑わしいとの考えを示した。
DeepSeekは、利用者の情報を中国国内のサーバーで保管していると説明しており、これは米企業にとって技術採用におけるネックになる可能性がある。
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