セールスフォースでの情報一元管理の仕組みが整う中、先述した通り、現場の最前線である管理人とのコミュニケーション改革も進んだ。全国152カ所の集中管理事務所に配置された平均年齢68歳の管理人548人は、かつて本部との情報のやり取りに苦心していた。
20年近く管理人として携わってきた納田さんは「雇用促進住宅時代は紙ベースでの業務が中心。何か連絡事項があってもFAXや郵送が主流だった。デジカメで撮影した写真を、一度事務所に戻ってPCに取り込んでから送信する必要があった」と当時を振り返る。現在、納田さんは9つの府県、136物件、約1万5000戸を管轄する関西エリアの管理責任者を務めている。
管理人全員にiPhoneとLINE WORKSのアカウントが付与され、「1つの会社の1つのチーム」としてリアルタイムなコミュニケーションが可能になった。物件の不具合や修繕箇所を見つければ、その場で写真を撮影してLINE WORKSで報告。本部からの指示もすぐに届き、対応結果も写真付きで共有される。「70歳くらいの方でも、iPhoneで写真を撮って加工し、コメントを入れて送信できるようになった」(納田さん)という。
さらに、管理人が入居者とやり取りした督促の結果や約束事項は、LINE WORKSからセールスフォースに取り込まれ、家賃回収の精度向上にも貢献。居住者との日々の会話など、コミュニケーション履歴が残る恩恵は想像以上に大きい。「多方面からの督促活動が可能になった」(岩元氏)といい、冒頭で触れた年間10億円の回収額改善を支える一因となっている。
一般的な賃貸管理会社では、コスト削減の観点から管理人の常駐を避ける傾向にある。しかし、ビレッジハウスはあえて152カ所の集中管理事務所に管理人を配置する体制を維持している。
「物件が全国のあらゆる場所に点在する中、7つの支社だけでは細かな管理は不可能。内覧の立ち会いから鍵の交換まで、現地でしか対応できない業務も多い。管理人は入居者にとって最も身近な存在であり、私たちのサービスの要となっている」と岩元氏。
実際、自社での集客(ダイレクトリース)の比率は50%を超え、仲介手数料の削減にも寄与。落ち着いた高齢の管理人が立ち会う内覧は、入居希望者に安心感を与えているという。アフォーダブル住宅というビジネスモデルを支えるため、DXは人員削減ではなく、人の力を最大限に引き出すツールとして機能している。
「外国人労働者は2023年に200万人を突破し、今後5、6年で300万、400万人規模になると予測されている。私たちの物件でも新規契約の25.9%が外国人。DXの活用で多言語対応のコールセンターも実現し、母国語でのサービス提供が可能になった」(岩元氏)
2017年の創業以来、同社のDXへの取り組みは進化を続けてきた。セールスフォースを核とした業務基盤の構築に始まり、LINE WORKSによる現場とのコミュニケーション改革、そして自社開発による工事管理システムの実装まで。これらの施策は互いに連携し、より大きな効果を生み出している。
アフォーダブル住宅という社会インフラを支えるため、人とテクノロジーの共生を追求してきた同社。増加する外国人居住者や多様化する住宅ニーズに、これからも向き合い続ける。
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