銭湯は設備の維持や修繕に費用がかかる。ボイラーなどの機械や水道管、洗い場のカラン、シャワー、壁や床のタイルなどは日々使うことで痛んでいき、どこかの段階で交換など大規模修繕が必要になる。そこにかかる費用は決して安くない。大黒湯は2月中旬から、開業時からそびえ立つ煙突の解体工事を行う。
「(改修、修繕など)どんどん工事費が上がっていますし、入浴料550円で改修するのは不可能です。いくら努力しても会社ですから利益を上げないといけない。経営ができなかったらやめるしかない(現在は)お客さまが来てくださっているのでどうにか成り立ちますが、いかに銭湯を残しつつ営業スタイルを良いものにしていくか、私たちの課題でした」
そこで、入浴料以外でプラスアルファの収益を得ていく必要がある。その一つがサウナだ。大黒湯のサウナは大露天風呂がある方が平日370円、土日祝400円、炭酸泉がある方が平日300円、土日祝330円となっている。サウナ人気は高く、週末夜は入場制限がかかることもあるほど。
大黒湯はサウナ以外にも、オリジナルクラフトビールを販売している。2023年11月に自前の醸造所兼ビアバー「BATHE YOTSUME BREWERY」(ベイズ・ヨツメ・ブルワリー)を近所に建て、経営する4店舗でビールを販売。風呂上がりの一杯として好評を得ている。
他に人気なのが、2018年に大黒湯に併設して始めたマッサージ店「電力整体」だ。特別な機器で電気施術「流筋ボディケア」を行う。 指圧では届かない箇所を刺激して筋肉を芯から緩める「全く新しいオリジナル電気施術」とうたう。
「私と竹内という者が一緒になって生み出した技法で、今予約が取れないくらいパンパンなんですよ。Google Mapの口コミ上での評価も高いです。そもそも私は体が大きいのでマッサージで指が入らない。体がもうずっと痛くてどうしようという時にこれだったらいける、この技法でやったらお客さまきっと喜ぶだろうとスタートさせました。今やとんでもない人気ぶりです」
前編でも紹介したが、大黒湯は数カ月ごとに企業、アニメ、映画とのコラボレーションを行なっては話題になっている。その際に重視しているのは「喜んでもらう」「自ら楽しむ」だという。
「常連さんも楽しんでもらえるようなものにしたい。嫌々やりたくないですね。やるなら思いっきりやりたい。コラボする企業さんも喜んでくださるしお客さまも喜ぶ。私たちも喜んでやりたい。もちろんコラボ、PR案件は(経営面で)大きいですが依存するつもりはありません。うちとしては楽しいからやります。逆に、うちがやりたいと思わないものは一切やっていません。完全に線引きはさせていただいている」
結果的にコラボは毎度評判を呼び、さらに代理店から問い合わせがあり、次の依頼が舞い込んでくるという好循環をつくれている。
今後も新規事業を考えているのかというと、そこは冷静に見ていると新保さんは話す。
「今手がけているものをもう少し伸ばさないといけないとは思っています。そうすれば収益体制が安定していくので。これまでの銭湯以外の事業は、全て銭湯のためにやっています。例えばクラフトビールは『湯上がりのビールが美味しいと理解している銭湯屋が、ビールを作ったら1番美味しいものを作れるはず。だったらビール屋さんを作るしかないよね』というコンセプトで始めました。あくまで銭湯が軸です。今後は、ビール工場を伸ばすのもありですし、マッサージを伸ばすもありですし、(系列の銭湯・黄金湯に併設する)宿泊施設を伸ばすのもあり。その中で時代に合った選択をしていけばいい」
新保さんへの取材中、ちょうど大黒湯の営業時間に差し掛かった。開店と同時に客が続々と入ってくる。その光景を眺めながら、新保さんは「銭湯の役割は、健康、衛生、そしてコミュニケーションの場があること」と話した。
「お風呂に入ると基礎代謝を上げるという点でも健康につながるし、衛生を保つ役割はやはり大事だと思っています。そこにプラスアルファで、常連さんとの会話やほっとする一瞬が日々の生きる活力にもなる。コロナの時には外に出られない方が多く、何も会話がない、人と会えないとふさぎ込みやすい中で、銭湯に来て会話がなくても知った顔を見るだけで気持ちをほっとできました。コロナは終わりましたが、そういったことが大事なのかなとは思っています。『ありがとう』『来ると気持ちが落ち着くよ』って言ってくださる方が本当に多かった」
最近は銭湯の関係者から相談を受けることもあるという。そういった時に新保さんが伝えるのは、自分がやりたいかどうか。
「銭湯の人からどう改修したらいいかって相談をくださる。いつも私がお答えするのは、自分がやりたいなら、やりたい銭湯を作るべきだよと答えています。そうじゃないと一生かけて仕事をするのに、お金もうけのためだけにやっても続きません」
大黒湯がここまで人気になり経営が好転したのには、新保さん自身が楽しんでいるからなのだろう。銭湯文化を紡いでいくため、新保さんは今日も銭湯と向き合い続ける。
「採算ラインぎりぎり」 大黒湯は厳しい経営状態から、どうやって人気銭湯になったのか?
コンビニの25倍も売れる コカ・コーラも期待するドリンクが「銭湯」を主戦場に選んだ真意Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
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