週末の夜、湯船に漬かるためひっきりなしに老若男女問わず人が訪れる銭湯が、東京都内にある。そのペースは日付をまたいでも変わらない。それが、墨田区にある「押上温泉 大黒湯」(以下、大黒湯)だ。今でこそ東京の人気銭湯の一つだが、ここに至るまでにはさまざまなチャレンジがあった。
2012年に先代の父から大黒湯を引き継いだ3代目の新保拓也さんによると、当時は客数も多くなく「採算ラインぎりぎり」の厳しい経営状態だったという。いかに墨田区の一銭湯から東京屈指の人気銭湯へと昇華させていったのか。
東京の東エリアの繁華街である錦糸町、その駅から北に徒歩15分もしくは東京スカイツリーから南に10分ほど歩くと、下町の住宅街に築約70年以上の歴史を持つ銭湯が現れる。建物越しにスカイツリーがちょうど重なり、写真映えすることもあって、多くの来店客がスマホで撮影している。
店の暖簾(のれん)をくぐって中に入ると、「男」「女」と書かれた暖簾が目に入る。大黒湯自慢の大露天風呂は、男性が奇数日、女性が偶数日の割り当て。男性の偶数日、女性の奇数日には代わりに高濃度炭酸泉が楽しめる。他にもジェットバス、日替わり薬湯、水風呂など種類豊富な湯船を味わえ、サウナも備える。風呂好き、サウナ好き、多くの人がそれぞれの楽しみ方で大黒湯を堪能できる。
翌10時までのオールナイト営業をしていることもあり、深夜だろうと、早朝だろうと常に利用客が訪れる。新保さんが大黒湯で一番好きな入浴時間は朝だという。
「経営してる今は朝に入るようにしています。朝湯は本当に最高なんですよ」と話す。朝日を浴びながら露天風呂に漬かることで、気持ち良く1日のスタートを切られるのだろう。
今でこそ大繁盛しているが、リサイクル店を営んでいた神保さんが、体調を崩した父から家業を継ぐことになった2012年当時の来店者は1日120人ほど。採算ラインぎりぎりの厳しい状況だった。父親が倒れた中、自力で必死になって銭湯経営や運営を学んでいった。
「子どもの頃からそばで見ていた家業でしたが、機械の操作、掃除の流れ、1日の流れと分からないことだらけ。経営に加わった当初は父が病気で休んでいたので、誰も教えてくれる人がいない状況でした。業者さんや近しい方に機械の使い方やお湯の入れ方などを教えてもらいながら、その間もいろいろな銭湯を巡って、銭湯のことや銭湯の経営を教えていただき学んでいました」
当時も現在も、街の銭湯(一般公衆浴場)を巡る状況は厳しい。街の銭湯で構成する、各県の浴場組合でつくる全国公衆浴場業生活衛生同業組合連合会によると、組合に加入する銭湯数は1968年の1万7999軒をピークに右肩下がりで減少し続け、2024年には全国で1653軒にまで減っている。
全国で一番多い東京都でも銭湯の減少は止まらない。都の公式Webサイトで公表されているデータ(PDF)によると2009年には840軒あったのが2023年末時点で444軒に。1年間に20軒近く廃業、休業している。
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