この記事は、榎本博明氏の著書『「指示通り」ができない人たち』(日経BP 日本経済新聞出版、2024年)に、編集を加えて転載したものです(無断転載禁止)。なお、文中の内容・肩書などは全て出版当時のものです。
仕事はそつなくこなすのだが、それ以上にならない、つまり今イチ成長していかないというタイプがいるものだ。そんな部下を持つ管理職は、期待のまなざしを向けながらもいら立ちを隠せないようだ。
「ちょっと困ったことがありまして……問題のある部下……いや、そんなふうに言うと、ちょっと誤解されてしまうかもしれませんね。とくに問題があるっていうわけではないんですけど……」
『何か気になってしまうことがある?』(筆者、以下同)
「そうなんです。とくに仕事する上で支障があるわけじゃないんですけど、もうちょっと何とかならないかって……」
『なるほど。その、何とかならないか、っていうところをもう少し詳しくお話しいただけますか?』
「はい。彼の仕事ぶりに不満があるわけではないんです。きちんと業務をこなしてくれているし、ミスが多いということもなく、とくに問題はないんです。でも、何ていうか、彼を見てるとイライラしてしまうんです」
『イライラする? それはどんなときですか?』
「どんなとき? そうですね……不手際にイライラするとか、配慮が足りないからイライラするというようなことじゃないんです……うーん、どんなときなんだろう……」
『イライラするようになったのは、いつ頃からですか?』
「いつ頃から? はじめのうちはそんなことはなかったですね。彼が入ってきてちょうど1年になるんですけど……自分の中にイライラを感じるようになったのは、3カ月くらい前からですかね」
『3カ月くらい前ですか。その頃から、彼に何か変化がありませんでしたか? あるいは、あなたの彼に対する思いに何か変化はありませんでしたか?』
「あの頃、何があったのか……」
『では、もっと前からの流れをたどってみましょうか。彼が入ってきたときからこれまでの流れみたいなものを』
「そうですね。とにかく彼は物覚えがいいんですよ。新人の頃から仕事を覚えるのが早くて、これは有能な若者が入ってきたって安堵したんです。というのも、前年にひどい目に遭ったものですから」
『ひどい目に遭われた?』
「ええ。前の年に入ってきた人は、いくらていねいに教えてもなかなか仕事を覚えてくれなくて、ほんとに手を焼いたんです。それでも根気よく指導していたんですけど、ようやく少しは仕事を任せられるかと思ったところで、突然辞めてしまいました。そんなことがあったもんですから、覚えの早い新人が入って来て、ホッとしたんです」
『そうだったんですね。彼はスムーズに仕事を覚えていったんですね』
「そうなんです。入ってきて1カ月くらいでほぼ必要なことは覚えて、戦力として機能するようになりました。……今ふと思ったんですけど、彼に対して感じる不満は、その……何ていうか……欲のなさ? 彼の欲のなさが不満なんじゃないかと……」
| 筆者プロフィール:榎本 博明(えのもと | ひろあき) |
|---|---|
MP人間科学研究所代表、心理学博士
1955年東京生まれ。東京大学教育心理学科卒。東芝市場調査課勤務の後、東京都立大学大学院心理学専攻博士課程中退。川村短期大学講師、カリフォルニア大学客員研究員、大阪大学助教授等を経て、現職。
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