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買い替えより「修理」促す パタゴニア流・顧客ロイヤルティ―の高め方Retail Dive

» 2025年02月27日 08時00分 公開
[Michael BradyITmedia]

 環境配慮を掲げる企業は多くありますが、実際にどこまで実行できているのでしょうか。その問いに対し、確かな行動で応えているのが、日本でもなじみのあるアウトドア用品の米パタゴニアです。

 多くのアパレル企業が新商品の購入を促す一方で、パタゴニアは顧客に修理をすすめ、長く使い続けてもらうため、無料の補修キットの提供や、修理専門チームの設置など、「修理・再利用」の仕組みを強化しています。こうしたブランドの理念を貫くことで、顧客の信頼と支持を獲得してきました。

 同社の取り組みは、ブランド・ロイヤルティ―の醸成にいかに寄与し、業界全体にどのような影響を与えているのでしょうか。米ビジネスメディア「Retail Dive」のレポートを紹介します。

米ニューヨーク市のグリーン・ストリートにあるパタゴニアの店舗(マイケル・M・サンティアゴ氏撮影、ゲッティイメージズ)

 多くの小売業者は、衣類が破れた際に新しい商品を購入してもらうことを望んでいる。しかし、パタゴニアは違う。

 「本格的なスポーツ向けに作られた製品は、どうしてもダメージを受けるものだ。使い込めば傷つくし、ボロボロになることもある」と、パタゴニアの広報担当であるJ.J.ハギンズ氏は語る。

 パタゴニアは、顧客に対し新しい商品を購入するのではなく、既存のウェアを修理して使い続けることを推奨している。顧客が希望すれば、カスタマーサービス部門から無料の補修キットが送られ、小さな穴や裂け目を修理できるようになっている。

 また、直営店のスタッフは簡単な修理を行う技術を持っており、顧客自身が修理できるようサポートするほか、ネバダ州リノにある修理専門チームへの橋渡しも行う。さらに、同社のWebサイトには、修理方法やDIYチュートリアルのライブラリが用意されており、セルフリペアの可能性を探る手助けをしている。

ブランド価値観の体現がロイヤルティ―向上につながる

 パタゴニアの修理プログラムは、同ブランドが掲げる理念を体現する取り組みの一例だ。

 「ブランドの哲学を反映し、製品を使い続けることを顧客に奨励するものだ」と語るのは、パタゴニアのグローバル修理エクスペリエンスマネージャーであるクララ・レッドウッド氏だ。

 「これは私たちが行っている最も素晴らしいことの一つだ。家庭でも、アウトドアでも、自分で修理することを推奨している。何とかして使い続けてほしい。穴が開いたら電気テープを貼るなり、デンタルフロスで縫うなり、できることをやってほしい。それで保証が無効になることはない」

 同ブランドは、環境・社会の持続可能性や透明性、そしてコミュニティとのつながりを重視する姿勢を貫くことで、顧客の信頼を得ている。こうした価値観を体現することが、顧客のブランドへのロイヤルティ―を高め、リピーターを生み出していると専門家は指摘する。

持続可能性への本気の取り組み

 多くの企業は、環境に配慮しているかのように見せかけるマーケティング手法(グリーンウォッシング)を用いるが、パタゴニアは違う。本当に持続可能なビジネスを実践していると専門家は評価する。

 「パタゴニアは、マーケティングの誇張表現を避け、実際の取り組みを重視することで、他のブランドとは一線を画している」と語るのは、KPMG米国のカスタマーエクスペリエンス&エンゲージメントリーダーであるジェフ・マンゴ氏だ。

 実際、パタゴニアはKPMGの「2024-2025年米国カスタマーエクスペリエンス優秀企業ランキング」で、前年より16位上昇し、3位にランクインしている。

 同レポートによると、「持続可能性に関する企業の理念が、倫理的な消費を重視する消費者層に共鳴している」という。さらに、環境への配慮と透明性のあるコミュニケーションが、顧客との感情的な結びつきを強め、ブランドの支持を高めている。

 「パタゴニアは、言ったことを実行する数少ないブランドの一つだ」と語るのは、南カリフォルニア大学マーシャル・スクール・オブ・ビジネスのクリストファー・ブレズナハン教授(臨床経営組織学)であり、同大学のヘイズ・バーナード・サステナビリティ・フェローシップのディレクターでもある。

 1985年以降、米カリフォルニア州ベンチュラに本社を置くパタゴニアは、売り上げの1%を環境保護・回復のために寄付しており、これまでに1億4000万ドル以上を世界中の草の根環境団体に寄付している。

「修理」「再利用」「リサイクル」を推進するパタゴニア独自の仕組み

 パタゴニアは、環境と社会の目標を達成するため、さまざまなプログラムを展開している。

 まず、耐久性のある高品質な衣類を生産し、無駄を最小限に抑えるよう顧客に呼びかけている。また、「アイアンクラッド・ギャランティー」という保証制度を提供しており、新品・セール品を問わず、いつでも返品を受け付けている。

 さらに、環境配慮型のパーソナライズした商品提案をWebサイトで行っており、これは他の小売業者には見られない取り組みだとマンゴ氏は指摘する。

 加えて、「ウォーンウェア」プログラムでは、顧客が中古のギアを売買できる仕組みを提供し、新しい衣類の需要を抑え、埋立地や焼却処理の削減につなげている。

 こうした修理プログラムは、顧客との信頼関係を築くのにも役立っている。

 「顧客は修理のために戻ってくる。このサービスがあることで、ブランドに対する信頼感が生まれる」とレッドウッド氏は話す。「私たちは、自社の製品に責任を持ち、それが修理可能な品質であることを証明している。それは非常に大きな意味を持つ」

パタゴニアの成功の鍵は?

 パタゴニアの修理プログラムは成功を収め、他のアパレルブランドからも関心を寄せられている。

 「私たちは、他のブランドにも修理をしてほしい。自分たちだけがやるのでは意味がない」とレッドウッド氏は語る。「もし他のギアメーカーの人から修理の方法について問い合わせがあれば、喜んで答える」

 しかし、ブレズナハン氏やレッドウッド氏によると、市場規模、顧客層、製品要件などの違いから、パタゴニアの成功をそのまま再現するのは難しいという。

パタゴニア直営店のスタッフは、軽微な修理を行うためのトレーニングを受けており、顧客が自分で修理できるようにサポートしている

 「持続可能性を実現できる企業は、最初からそれを企業理念に組み込んでいる場合が多い」とブレズナハン氏は指摘する。「スタートアップ企業はゼロから始められるが、コロンビアのような老舗ブランドは、大きな改革をしなければならない」

 最終的に、パタゴニアの成功の鍵は、個別の制度やプログラムではなく、その根底にあるブランドの哲学にあるとレッドウッド氏は結論づける。

 「私たちは、顧客と製品の両方を尊重する。それがすべてだ」

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