老朽化したレガシーシステム(既存システム)は、企業の成長を妨げていないか――。
経済産業省は、2018年に発表した「DXレポート」の中で、企業におけるレガシーシステムの維持コストが年々増加し、新たなデジタル技術の導入が進まないことによって、企業の競争力が低下し、2025年以降、最大で年間12兆円の経済損失を招く可能性があると警鐘を鳴らす。
「2025年の崖」とも呼ばれるこの問題に対して、企業は、現行のシステムに最新技術を取り入れてアップグレードし、市場のニーズや技術の進化に対応できるようにする「モダナイゼーション」に取り組む必要性が一段と高まっている。いわゆる、企業の競争力強化に向けたDX推進の一つだ。
しかしながら、多くの企業がDXを推進するどころか、レガシーシステムの維持管理に苦慮しているのが現状でもある。長年にわたり運用されてきたシステムは複雑化し、運用を特定の人に依存してしまう「属人化」も進む。
その影響によって課題となっているのが、システムの仕様が不明瞭となる「ブラックボックス化」だ。システム改修や機能追加には時間とコストが掛かるため、DXへ向けたデジタル基盤への移行が停滞する一因となっている。
これらの問題に対して、ソフトウェアの品質保証を軸にさまざまなDX事業を展開するSHIFTは、1月31日に開催したモダナイゼーション戦略説明会で、AI技術を活用したモダナイゼーションの新たなアプローチを発表した。同社が開発した「AIモダナイ解析ツール」は、従来の手作業では困難だった大規模なレガシーシステムの可視化やブラックボックス化した仕様の抽出を自動化し、クラウドシフトやマイクロサービス化を加速させるものだ。
SHIFTが開発した新たなアプローチは企業のDX推進にどのように貢献するのか。同社ITソリューション部 部長の加藤勝也氏による説明をもとに、AI技術を活用したシステム移行の効率化とはどのようなものか、今後の展望も見据えながら解説する。
経済産業省の「DXレポート」によれば、8割を超える国内企業が老朽化したレガシーシステムを大部分もしくは一部を有しており、そのうち約7割が「レガシーシステムがDX推進の足かせになっていると感じている」という。レガシーシステムを維持していく上で課題となるのが、担当者の交代やエンジニアの退職、ソースコードの乱雑化などにより、システムの仕様が不明瞭となる「ブラックボックス化」だ。
さらに、レガシーシステムの多くはCOBOLやFortranといった従来のプログラミング言語で構築されており、これに対応できるエンジニアが年々減少しているため、システムの維持・管理がますます困難になってきている。加藤氏は「IT予算配分の現実を見ると、現行システムの維持に7割近くの予算が割かれ、攻めのDXへの投資がほとんどできていないのが現状」と語る。
既存ベンダーの独自技術により、仕様の可視化がされずに、保守ベンダーに頼らざるを得ない「ベンダーロックイン」の障壁もある。さらには、市場においてモダナイゼーションの成功例が少なく、方法論が確立されていないため、投資に躊ちょしてしまう「投資価値判断」の課題も挙げられる。こうしたレガシーシステム刷新の課題を解決するために、SHIFTはモダナイゼーションサービスを提供し、クラウドシフトやマイクロサービス化を活用した最新のアーキテクチャへの移行を支援している。
レガシーシステムのモダナイゼーションを進める上で、重要な視点となるのがクラウドシフト、マイクロサービス化、そしてモダンアーキテクチャだ。
クラウドシフトとは、システムやアプリケーションといったIT資産を、自社内運用となるオンプレミス環境からクラウド環境へ移行することを指す。柔軟性や拡張性が高いクラウド環境へ移行することにより、インフラ運用の最適化や必要な時にリソースを拡張できるようになる。
加藤氏は「クラウドシフトの技術は欠かせない。クラウドに移行するだけではなく、クラウドをいかにして使いこなしていくかが重要となる」と語る。
さらに、レガシーシステムは長年の運用で数千万ステップ、数千万行に及ぶ規模で肥大化している場合もある。これをそのまま維持するのは困難なため、機能を小さく分割して、管理しやすくするマイクロサービス化が求められる。
「(システムの)仕様を数人で分かる範囲でプログラムを区切っていくことによって、システムの面倒を見られるようにしていかなければならない。小さく区切ることにより、保守性も高められる」(加藤氏)
モダンアーキテクチャとは、こうしたクラウドシフトやマイクロサービス化を活用し、柔軟性・拡張性・保守性に優れたシステムを構築することを指す。モダンアーキテクチャを採用することで、システムの運用効率が大幅に向上する。全て同一のモジュールとして構成する従来のモノリシックなレガシーアーキテクチャと異なり、機能ごとに独立した小規模なサービスとして分割することで、個別の改修や拡張が容易となるという。
モダンアーキテクチャを導入することによって、開発と運用を継続的に繰り返しながら、短いサイクルで改善を積み重ねていくアジャイル開発が促進される。その結果、システムのアップデートや最適化がスムーズにでき、DX推進の加速につなげられるという。
「最新の技術を使いながら、開発の効率も向上させていくアーキテクチャに刷新することによって、アジャイル開発ができていきます。業務の要求があった時に素早くITをアップデートしてリリースしていくことが、モダナイゼーションには必要となります。単に言語を置き換えて、クラウドに移行しただけでは、メリットを十分に享受できません。DXにおいて、モダンアーキテクチャが必須になると考えています」(加藤氏)
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