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管理職は「罰ゲーム」なのか? 生成AI時代で変わる、求められる役割と評価石角友愛のキャリアコンパス

» 2025年03月27日 08時30分 公開
[石角友愛ITmedia]

連載:石角友愛のキャリアコンパス

仕事観の変化やテクノロジーの進化によって、キャリアの「正解」は消滅した。複雑で高度化するビジネス環境で活躍し続けられる人材になるためには、市場の風を読み、自身でキャリアを作り上げていく必要がある。キャリアは一日にして成らず──シリコンバレー在住の石角友愛(パロアルトインサイトCEO・AIビジネスデザイナー)とともに、自分なりの「正解」を考えていこう。

 管理職は板挟みのストレスや長時間労働、リストラのリスクを抱える厳しいポジションとされてきました。しかし、生成AIによってその負担が大きく軽減される可能性もあります。生成AI時代において、管理職への評価がどのように変化していくのかについて見ていきましょう。

管理職は罰ゲーム? 米国では「不要論」も

 日本能率協会マネジメントセンター(JMAM)が2023年4月に実施した調査では、非管理職社員の77.3%が「管理職になりたくない」と答えています。この割合は増加傾向にあるようです(2018年は72.8%)。

 管理職に就くことを「罰ゲーム」と考える風潮もあるほどです。管理職がこのように評価されるのは、以下3つの背景があります。

  1. 板挟みのストレスが大きい
  2. 評価されにくい
  3. リストラのリスクが高い

 管理職は上司の方針と部下の意見の間での調整役を求められます。この際の精神的な負担は大きく、理不尽な要求や対立の仲裁が続くとストレスはたまっていく一方です。

 また、それらの業務成果は数値化するのが難しく、評価されにくいのです。さらに、経営改革に伴う人員削減時には、管理職が真っ先にリストラの対象になります。特に米国では経営層に「いなくても回る」と判断される傾向があります。日本でも早期退職制度のメインターゲットは中間管理職です。

管理職は罰ゲームなのか?(画像:ゲッティイメージズより)

 米国では「管理職の不要論」も叫ばれており、すでに管理職を設けることを止めた企業もあります。

 例えば、米国のWebアプリ開発企業のベースキャンプ(旧37signals)はフルタイムの管理職を廃止し、全員がプレイヤーとして業務をこなす「プレイヤー/コーチ」モデルを採用しました。その背景には、管理職を専門とする人が組織にいることで、進捗管理や無意味な報告業務などが人工的に生み出され組織全体としての作業効率や生産性が下がっていたことが挙げられます。この組織改革によって、不要な会議やレポート作成が減り、社員の主体性が向上したとされています。

 もちろん、この組織モデルが全ての企業に適しているわけではありません。例えば、米アルファベットは一時的に管理職をなくしたものの、社員の要望に応じて復活させています。ある程度の規模の組織になれば、管理職を設けることは自然な流れであるとも言えます。

生成AI時代、管理職への評価はどう変わるのか?

 前述した通り、管理職に対する関心は低く、不要論まで飛び出しています。しかし、生成AIの進化と普及によって、その評価は大きく変わっていくのではないでしょうか。これまで管理職に求められていた細かい業務の多くが生成AIで半自動化され、本来のリーダーシップを発揮する仕事に集中できるようになるからです。「管理職=罰ゲーム」と評されるような時代は過去のものとなる可能性もあります。

 具体的にどのような管理職業務やスキルが、生成AIによってサポートされていくのでしょうか? 3つのポイントにまとめて解説します。

(1)雑務は生成AIが代行

 管理職は会議の議事・進行、KPIの管理、人事のデータ整理など、多くのルーチン業務を抱えています。生成AIは、これらの作業を自動化していきます。このため、管理職は「雑務」に時間を奪われることなく、本来のピープルマネジメント業務に集中できるようになります。

(2)経験不足も生成AIがカバー

 管理職には、豊富な業務経験と幅広い知識が求められます。しかし、生成AIを活用すれば、経験が浅くても必要な情報を即座に取得し、適切な判断が可能になります。

 もちろん、生成AIで得られる情報には限りがあり、それを使ってどういう判断をするかは個人次第です。しかし、孤独な立場に押しやられがちな管理職が、生成AIを壁打ちの相手として使いこなし、どんなオプションがあるのかを網羅して整理できるようになることには大きな意味があります。これは管理職の流動性にもプラスに働きます。管理職キャリアを別企業や異業種で生かせるようになるのです。

(3)生成AIが組織管理

 社員全員が生成AIを活用しながら業務を進める環境が整いつつあります。タスクの進捗管理を生成AIがサポートするようになれば、管理職が細かく指示を出さずとも、組織は最適解に向かって動いていきます。管理職は調整指示を出す手間から開放され、組織・チームの方向性を導き出すリーダーとしての役割に専念できます。

生成AI時代の管理職に求められるもの

 生成AIの進化と普及により、管理職の雑務や調整タスクは半自動化されていきます。これにより業務負担は軽減されますが、管理職には新たな役割が求められるようになるでしょう。管理職は単なる業務管理者ではなく、チームを導き、AIを駆使して新たな価値を生み出す存在へと進化する必要があるのです。

 つまり、生成AIに代替できない「人を動かす力」が管理職に求められるようになります。チームの満足度(エンゲージメントやリテンション率)を高め、生成AI導入による業務効率化を推進し、新しい価値を生み出していくことがミッションになります。

 具体的には、管理職は「プレイヤー」として最前線でAI活用や推進を目的とした業務に関与し、「コーチ」としてAI導入をして改善し続けられるチーム体制と安心、安全な職場作りを行い、チームとその先にある組織全体を成長・成功へと導くことが求められているのです。実際に「求められる能力」と「具体的なタスク」は以下のように整理できます。

管理職に求められる能力と具体的なタスク(画像:筆者作成)

 プレイヤーとして生成AIを駆使し、チームメンバーの一員となり業務を進めることで組織全体の生産性向上に寄与するのはもちろん、コーチとして生成AIを活用できるメンバーとそうでないメンバーそれぞれに応じた柔軟な指導を行うことが求められます。

 自走できる人材には成長機会を提供し、生成AIを使いこなせないメンバーには具体的な活用方法を示し、スキル向上を支援するなどして、多面的な顔を持つ必要が出てくるでしょう。

まとめ

 生成AIによる業務の自動化や意思決定のサポートが進み、管理職の負担は大幅に軽減されていきます。生成AI時代においては、管理職は単なる進捗管理役、指示役ではありません。プレイヤーとコーチ双方の役割を果たす「AIを使った組織の推進者」として再評価されていくことになるでしょう。

著者プロフィール:石角友愛(いしずみ・ともえ) 

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パロアルトインサイトCEO/AIビジネスデザイナー

2010年にハーバード・ビジネス・スクールでMBAを取得した後、シリコンバレーのグーグル本社で多数のAI関連プロジェクトをシニアストラテジストとしてリード。その後HRテック・流通系AIベンチャーを経てパロアルトインサイトをシリコンバレーで起業。東急ホテルズ&リゾーツのDXアドバイザーとして中長期DX戦略への助言を行うなど、多くの日本企業に対して最新のDX戦略提案からAI開発まで一貫したAI・DX支援を提供する。2024年より一般社団法人人工知能学会理事に就任。

AI人材育成のためのコンテンツ開発なども手掛け、順天堂大学大学院医学研究科データサイエンス学科客員教授(AI企業戦略)及び東京大学工学部アドバイザリー・ボードをはじめとして、京都府アート&テクノロジー・ヴィレッジ事業クリエイターを務めるなど幅広く活動している。

毎日新聞、日経xTREND、ITmediaなど大手メディアでの連載を持ち、 DXの重要性を伝える毎週配信ポッドキャスト「Level 5」のMCや、NHKラジオ第1「マイあさ!」内「マイ!Biz」コーナーにレギュラー出演中。「報道ステーション」「NHKクローズアップ現代+」などTV出演も多数。

著書に『AI時代を生き抜くということ ChatGPTとリスキリング』(日経BP)『いまこそ知りたいDX戦略』『いまこそ知りたいAIビジネス』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『経験ゼロから始めるAI時代の新キャリアデザイン』(KADOKAWA)、『才能の見つけ方 天才の育て方』(文藝春秋)など多数。

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