そして中国製のEVやPHEVは今後、米国内で価格が急上昇し、競争力が大きく低下していくと考えられる。これまでダンピングに近い行為が行われていたが、関税によって是正されれば中国企業は急速に勢いを失い、中国国内の景気も悪化するだろう。いかに大きな中国市場でも、実はそれを支えていたのは、米国や欧州市場などで外貨を獲得するために補助金で後押ししていた中国政府だからだ。
中国は、今回のトランプ政権の決定を不服として、100%を超える報復関税を打ち出している。米国からは主に燃料や穀物などを輸入しているが、その価格が倍以上に跳ね上がれば、中国の国内経済もかなりのダメージとなるはずだ。
かつて米国と日本の貿易摩擦問題では、日本製品の関税を引き下げてもらう代わりに穀物の輸入量を拡大したという交渉もあった。今回も、クルマ以外の分野で不均衡を是正できるよう交渉すべきだろう。
クルマ以外の品目では、日本に需要がある米国製品も少なくないが、米国メーカーの製品であっても米国内で製造されていないことが多い。例えば、アップルのiPhoneだ。米国で稼ぎ頭の巨大テック企業でもハードウェアを作っているところは少なく(一応Googleもスマートフォンを作っているが)、しかもそのほとんどは米国内で生産されていない。
そう思っていたら、この原稿を書いている途中で、スマホと半導体は相互関税を免除するとトランプ政権が発表した。これはGAFAMなど米国企業への対応であり、米国民の負担増による不満を解消するのも狙いのようだ。その後も、追加の相互関税について90日間の発動猶予を発表するなど、相互関税の内容は目まぐるしく変化している。そのため、世界の政府や企業は振り回されている。
トランプ大統領が目指しているのは、米国民が納得する成果であり、相手国の政府や国民がどう思おうとどうでもいいのだ。だから「日本はコメに700%も関税を課している!」という事実に反する暴論(実際には200%らしい)も平気で言い放つのである。
そして中国は、報復関税の発動を発表すると同時に、レアアースの輸出制限を始めたようだ。完全に有利な立場かと思えたトランプ大統領も、毎日のように発言してはその内容を修正したり、新たな条件を付け加えたりしている。
結局、相互関税は誰も得をしない政策だといえるだろう。だからFTA(自由貿易協定=お互いに関税をゼロにする協定)やTPP(環太平洋パートナーシップ協定)などの非関税の枠組みづくりが進められてきたのだ。
4月14日には自動車関税を見直すことを検討していると言い出すなど、今後のトランプ政権の動きはまったく予測できない状況と言っていい。思い通りの方向に進んでいないことに、いら立ちを感じているのではないだろうか。
日本は今後、自動車関税に対して有効な妥協策を打ち出せるのか。トランプ政権の迷走ぶりとともに、日本側の交渉ぶりも見守っていきたい。
芝浦工業大学機械工学部卒。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。これまで自動車雑誌数誌でメインライターを務め、テスターとして公道やサーキットでの試乗、レース参戦を経験。現在は日経Automotive、モーターファンイラストレーテッド、クラシックミニマガジンなど自動車雑誌のほか、Web媒体ではベストカーWeb、日経X TECH、ITmedia ビジネスオンライン、ビジネス+IT、MONOist、Responseなどに寄稿中。著書に「エコカー技術の最前線」(SBクリエイティブ社刊)、「メカニズム基礎講座パワートレーン編」(日経BP社刊)などがある。近著は「きちんと知りたい! 電気自動車用パワーユニットの必須知識」(日刊工業新聞社刊)、「ロードバイクの素材と構造の進化」(グランプリ出版刊)。
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