日産の2024年度グローバル販売台数は334万6000台で、前年から約2.8%減少した。地域別のシェアを見ると、日本が10.7%と最も高い。続いて中国が3.2%、米国が5.8%、欧州が2.2%である。
国内市場でのプレゼンスが相対的に高い構造だが、外資系メーカーの参入加速によって脅かされつつある。特に台湾の鴻海精密工業や中国の比亜迪(BYD)など、資本力と開発スピードを兼ね備えた新興勢力が日本市場への展開を本格化させれば、日産の競争ポジションは大幅に低下する可能性がある。
注目すべきは、2026年後半に予定されるBYDの軽電気自動車(EV)市場参入だ。このセグメントは日本の自動車産業が防衛線と位置付けてきた領域である。
――といった多面的な要求に対応する技術的蓄積が求められる。もし外資勢がここで優位に立てば、国内ブランドの強みが逆転される可能性が高い。
加えて、日産が複数の工場を閉鎖する動きを進めているため、国内の生産拠点は縮小傾向にある。これらの設備や労働力、サプライチェーンが再び活用される見込みは乏しい。供給拠点としての空白地域には、外資系メーカーが新たな製造拠点を構築する動機が生まれる。既存のインフラや地場ネットワークを組み替えながら進出するシナリオも想定される。
問題は個別企業の市場シェアだけではない。日本国内の製造・開発基盤が持続可能な形で維持されるかどうかが最大の課題である。経済産業省が掲げるEV産業の成長戦略では、日産を核とした産業集積が前提となっていると考えられる。日産が研究・開発・生産の各段階でその機能を果たせなくなれば、戦略全体の再設計が避けられない。構想の修正は、日本のEV産業全体に時間的・資源的な損失をもたらす。
さらに、基幹部品であるEV向けバッテリーに関しても、日産が北九州市での新工場建設を断念した事実は象徴的である。これは電動車市場における競争力の低下を直接的に示している。これにより、国内技術がサプライチェーンから切り離されるリスクが高まる。海外メーカーが部品開発から量産に至るまで一貫して主導権を握る局面が訪れる可能性もある。もし日本市場が海外資本にとって「単なる販売先」に変質すれば、国内での
――といった波及効果は失われる。日本の製造業構造そのものが空洞化する危険性も否定できない。
日産が担ってきた役割は、一企業の売り上げや販売台数の問題にとどまらない。産業戦略の実行母体としての位置付けである。その機能が失われることは、競争上の優位性が後退する以上に、日本全体の自動車産業構造が他国主導のモデルに再編される危険を孕(はら)む。現時点でその兆候は明確に表れている。国内産業の自律性をいかに確保するかが今後の焦点である。
日産の経営不振は、かつて救済された日本航空とは同列で語れない。端的にいえば、日産は「変革力のない巨大企業」である。
コロナ禍で資金繰りが苦しかった2020年4月から7月にかけて、日産は銀行から約9000億円を融資などで調達した。うち日本政策投資銀行(DBJ)からの融資は1800億円に及ぶ。そのうち1300億円は政府保証付きだった。政府保証は、日産の返済が滞った場合に国が8割を補填するもので、実質的に国民負担となる。
同様に、2009(平成21)年の経営再建中だった日本航空にもDBJが約670億円の政府保証付き融資を行った。翌年、日本航空は経営破綻し、約470億円が国民負担になった経緯がある。
また、DBJはコロナ禍対策として、2020年7月末までに大企業を中心に185件、計1兆8827億円の融資を決定した。大企業向け融資の中で、政府保証が付いたのは日産だけであった。
日産を特別扱いする国の姿勢には疑問が残る。これらの事実は、国が「日産を潰さない」と宣言したに等しい。
一方で、公的資金の注入は経営刷新を阻み、経営責任の所在を曖昧(あいまい)にし、組織の緊張感を奪う側面も持つ。国の救済で温存された日産は、真の再建から遠ざかるリスクを孕んでいる。
それでもなお、国が日産を救済する意義はあるのか――。
この問いに答えるには、日本の自動車産業構造の設計視点が不可欠だ。日産の再建に求められるのは、短期的な収益改善の拙速さではない。将来を見据え、次世代の覇権をいかに確保するかが問われている。日産が今後の成長軸とすべきは、
――である。これまで日産は、コネクテッドカーやEV、e-POWERシステムの進化を遂げてきた。だが、これらを支えた人材が人員削減で流出すれば、単なる組立屋に逆戻りするリスクを抱える。
国の救済は、日産という一企業を守ることにとどまらない。日本発の産業戦略の基盤を確保することこそ、その本質である。日産が沈めば、日本の自動車産業の再編も頓挫する可能性が高い。
今後、日産の救済策をめぐり多様な議論と検討が進む見込みだ。
選択肢としては、2020年に実施されたDBJによる追加融資や、官民ファンドの資本参加などが挙げられる。政府主導は、自動車産業構造の再編を担う経済産業省か、地方自治体と連携する総務省かが注目される。
また、ホンダとの提携交渉再開を通じた民間主導の経営再建の可能性にも関心が集まるだろう。官と民の主導権争いは避けられず、民間連携が進むのか、官民ハイブリッド体制になるのか、方向性は定まっていない。こうした混迷の中で、日産の将来像は依然として不透明だ。
ただし、水面下では既に日産再建に向けた主導権争いが始まっている可能性が高い。
未曽有の経営危機に直面する日産は、日本の製造業の縮図である。人口減少とイノベーションの停滞に苦しみ、旧来の組織構造や世代交代の遅れが浮き彫りになる。
「放置すれば沈む。救済すれば腐る」という二者択一を越え、真の再編と脱構築が求められている。行き先は延命か、業界再編か。
国を巻き込む次世代の自動車産業戦略の中で、日産の経営再建に対する視線は一層厳しくなるだろう。
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